【6月21日 AFP】(写真追加)20年以上前に脳卒中に見舞われ四肢が麻痺し歩けなくなっていたオーストラリア人男性が、しわ取り効果で知られるボトックス注射を受けたところ再び自分の足で歩けるようになった。

 この男性はラッセル・マカフィー(Russell McPhee)さん(49)。23年前に脳卒中になった際、2度と退院できないだろうと医師から言われ、車いす生活を強いられていた。

 ところがビクトリア州のセントジョン・オブ・ゴッド病院(St. John of God Hospital)の医療チームがボトックスを注射する治療を始めたところ、マカフィーさんは18か月後には杖をつきながら自力で100メートルほど移動できるようになり、自宅の周囲も歩き回れるようになったという。

 ボトックスはボツリヌス菌毒素から抽出された成分で、しわ取りなどに効果があるとされ、ハリウッドのセレブリティーたちの間でも人気が高い。ボトックスの注入により筋肉に収縮させる信号を送っている神経伝達物質の放出が止まるため、顔に注射した場合はしわを作るのを防ぐ。

 ボトックスは、脳損傷や多発性硬化症、脊髄損傷、脳卒中などで手足が麻痺した患者の治療にも役立つとされている。

 同病院の理学療法士、バレンティナ・マリク(Valentina Maric)氏は、マカフィーさんが歩けなかったのは、脳が出す信号によって筋肉が絶えず痙攣(けいれん)していたためだと説明する。ボトックスによりこの痙攣を止めたところ、足の筋肉の収縮が23年ぶりに止まり、歩行に必要なその他の筋肉が強化されたという。
 
 一般的に、ボトックス注射の治療効果が現れるのは発症のすぐ後に処方された場合だが、発症から長年経った人にこれほど高い効果が得られたケースは今回が初めてだという。

 マカフィーさんがめざましい回復を遂げたのは、筋肉の強さと強い意思が決めてとなったと、担当医の1人、ネイサン・ジョンズ(Nathan Johns)氏は強調する。通常、筋肉は長い間使わないでいると劣化してしまうが、マカフィーさんは脳卒中で倒れる前、サッカー、クリケット、バスケットボール、テニスなど、あらゆるスポーツを愛するスポーツマンだった。そのため筋肉が衰えておらず、治療を受けると急速に回復したという。
 
 精神的に何度も追い込まれたマカフィーさんを励ましリハビリを受けるよう説得したのは、2年半前に再会した幼なじみの女性、ケリー(Kerry)さんだった。  

 マカフィーさんは激しい痛みと戦い続け、ようやく歩けるようになったのだと話す。「ボトックス注射を受けて、ベッドで寝ていて、ある朝突然歩けるようになったというわけではありません。懸命に努力しました」。ケリーさんの励ましと病院の医療チームの協力があれば、現在月3回受けているボトックス注射がなくても手足が動くようになる日が訪れると、マカフィーさんは信じている。

 現在は病気に冒されなかった筋肉を鍛えていると言う。長年動かない筋肉の働きを補うためだ。「それが今の目標だ」とマカフィーさんは話す。さらにケリーさんとの結婚も計画しているという。(c)AFP/Neil Sands