【12月11日 AFP】英国で10日、運動ニューロン疾患の末期患者の男性が2006年にスイスの病院で「安楽死」する様子を撮影したドキュメンタリー番組が放映され、賛否両論を呼んでいる。

 安楽死を選んだのは、米国出身の元大学講師で英国在住だったクレイグ・エバート(Craig Ewert)さん(当時59)。妻のメアリー(Mary Ewert)さんによると、クレイグさんは運動ニューロン疾患のため自分の力で呼吸することができなくなり、「悪夢のような」症状に耐えるよりはと、死を選んだ。

■自分で人工呼吸器を止めて死亡

 クレイグさんは、スイス・チューリヒ(Zurich)近郊にあるクリニック「ディグニタス(Dignitas)」で安楽死することに決め、その様子をアカデミー賞(Academy Awards)受賞者のドキュメンタリー制作者John Zaritsky氏が撮影することを、夫妻は承諾した。

 ドキュメンタリーの中でクレイグさんは、45分後に人工呼吸器のスイッチを切るタイマーを自分の歯で作動させた。それから、ベートーベン(Beethoven)の『交響曲第9番(Ninth Symphony)』を聞きながら、バルビツール酸系催眠薬を大量に服用。ディグニタスの代表が、「よい旅を」と別れの言葉をかけた。その間、メアリーさんは夫の手を握り、人工呼吸器のスイッチが切れて警告音が鳴り響く中、クレイグさんにキスをした。

■「自分で死を選ぶ」ことには賛否両論

 英国では自殺ほう助は違法だが、最近では、自殺ほう助が合法化されているスイスで安楽死を選ぶ事例が相次ぎ、倫理観をめぐって議論が巻き起こっている。9日には、試合中のけがでほぼ全身不随となったラグビー選手を安楽死させた両親の送検が見送られたばかり。

 10日に発表された英調査会社イプソス・モリ(Ipsos Mori)の世論調査では、「その時が来たと思った時に自分で死を選べる」ことに賛成だと答えた人が49%に上り、安楽死に一定の支持があることが明らかになった。一方で、回答者の31%は「反対」、20%は「わからない」と答えている。

 2006年には、人権問題専門の弁護士で上院議員のジョエル・ジョフ(Joel Joffe)卿が末期患者の自殺ほう助を合法化する法案を議会に提出し、否決された。

■番組の目的は「死に向き合うこと」

 メアリーさんは、英インディペンデント(Independent)紙に手記を寄せ、夫の最後の瞬間を映像にすることを承諾したのは、「死に正直に向き合うことが目的だった」と述べた。

 英国の通信・放送に関する規制機関である英国情報通信庁(Ofcom、オフコム)は、英国の放送ガイドラインが自殺の映像について「編集上」もしくは「文脈上」正当化される場合にのみ放送を許されるとしている点をめぐり、この番組がガイドラインに違反しているか否かは放映後に検討するとの方針を示している。

 このドキュメンタリー番組は、カナダや米国、オランダですでに放映されている。(c)AFP/Katherine Haddon