【6月8日 AFP】意思決定時の攻撃性や衝動性を抑制するうえで、神経伝達物質「セロトニン(serotonin)」が大きな役割を担うことが英国の科学者らの実験で明らかになった。

 セロトニンが社会的行動に及ぼす影響については、かねてから神経学者や精神科医の間で指摘されてきたが、その正確な役割については諸説あった。今回の研究報告は、脳内セロトニン濃度の低下と衝動的行動の因果関係を初めて明らかにすると同時に、空腹時に人が攻撃的になる理由も解き明かしている。

 脳内セロトニン濃度は空腹時に低下する。セロトニンを生成するために必要な必須アミノ酸の1つ「トリプトファン(tryptophan)」は体内合成が不可能で、食物からしか摂取するしかないからだ。

 研究に当たったケンブリッジ大学(University of Cambridge)の科学者らはこの事実に着目。被験者の食事を制限して脳内セロトニン濃度を低下させ、不公平な状況に置かれたときの反応を見る「最後通牒ゲーム」に参加してもらうかたちで実験を行った。

 このゲームでは、プレーヤーの1人が別のプレーヤーに高額の金を分け合うことを提案する。提案者の意見が受け手に承認されれば、2人とも提案通りの金額を得ることができる。却下されれば、2人とも一銭も得ることができない。

 通常、提案額が全額の2-3割程度の場合、「却下すれば一銭も得られない」とわかっているのに、約半数が却下される。

 ところが実験では、脳内セロトニン濃度が低下した状態だと約8割が却下される結果が出た。

 研究チームの1人は「社会的意思決定において、セロトニンが攻撃的な反応を抑止するという重要な役割を担っていることがわかった」と指摘したうえで、「セロトニン濃度は食事制限やストレスにより変動する。日ごろの意思決定にこのことが及ぼす影響をきちんと理解する必要がある」と述べた。

 研究チームは、今回の実験結果がうつ病、強迫性障害、重度の不安など、セロトニン濃度の低下を特徴とするさまざまな臨床的障害の治療に光明をもたらすことになるだろうとしている。

 研究は、英ウエルカムトラスト(Wellcome Trust)と英医学研究審議会(Medical Research Council)の資金援助を受けて実施された。研究報告は6日の米科学誌サイエンス(Science)に掲載された。(c)AFP