バイアグラ登場から10年、人気依然衰えず
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【3月23日 AFP】10年前の3月に登場した水色の小さな薬によって、多くの男性と女性の人生がほとんど一夜にして変わった。経口薬としては初の性的不能治療薬「バイアグラ(Viagra)」だ。
バイアグラは米医薬品大手ファイザー(Pfizer)のファイザー研究所(Pfizer Laboratories)が「偶然」、開発した薬で1998年3月27日、米食品医薬品局(US Food and Drug Administration、FDA)に認可された。
ファイザーのブライアン・クレー(Brian Klee)シニア医療ディレクターはその誕生についてこう語る。「最初われわれが試験していたのは血管障害に対する研究で、バイアグラの主成分シルデナフィル(sildenafil)の血圧降下作用に関する効果だった。しかしその間、試験薬を使った人たちがそれを返してこないことに気づいた。その薬に、勃起の促進や持続時間を長くする効果があったからだった」
■外科処置のみだったED治療が飛躍的に容易に
発売以降、世界で3500万人の男性がバイアグラを使用し、性的不能の解消は飛躍的に容易になり、世間で話題にできないことのリストから消えた。勃起不全が「ED」という名前に呼びかえられるようになるとともに、バイアグラの効果が広く知れ渡りはじめると、泌尿器科医の待合室を訪れる人も急増していった。
それまでのED治療には外科手術が必要で、ペニスに人工器官を差し込んだり、男性器に注射したり、尿道に薬剤を入れるなどしていた。
「バイアグラのおかげで治療が簡単になり、診察室に来る人が増えた」と米ワシントン(Washington)州で40年の経験を持つ泌尿器科医アーウィン・シューマン(Irwin Shuman)氏はいう。「昔は治療法が少なかったので、原因が何かを突き止めるため検査をもっとしていた」上、試験の結果、治療が心理学の分野にまわされることも多かった。
バイアグラにより性的不能に対する働きかけが、心理学の領域から身体的な治療へと移った。「過去10年でEDは血管障害だということが明らかになってきた」とクレー氏はいう。「障害の原因は、ペニスに血液を送る静脈と動脈が、本来の働きをしていないことにある。バイアグラは血管を拡張させ、ペニスへ向かう血流を促進する効果がある」。
■関係改善に必ずしも役立つとはかぎらない
ボストンにある「メンズ・ヘルス・ボストン」の所長で、ハーバード大学医学部泌尿器科臨床学准教授のAbraham Morgentaler氏もバイアグラを評価する1人だ。しかし『The Viagra Myth(バイアグラの神話)』の著者でもある同氏は、使用した人全員が満足しているわけではないと指摘する。
「バイアグラには2つの真実がある。薬をもらったときはみんな嬉しそうだ。多くの人はEDが解消すればカップルの問題も解決すると思って、個人の幸せのためにバイアグラを求める。しかし、カップルの問題は解決せず、失望することもある」。
服用した人の中には、自分が求めるセックスにはふさわしくないと苦情を述べる人もいる。
バイアグラの効果が最大になるのは、空腹で服用した場合か低脂肪の食事の後であるとメンズ・ヘルス・ボストンのウェブサイトには書かれている。服用後約30分で効果が現れ、性的刺激があれば4時間ほど持続するとされる。
しかし、これがすべての人にとって納得できる答えとなるわけではない。Morgentaler氏は担当する78歳の男性から「プログラムされたセックス」という発想はいやだと言われたことがある。男性には、女性たちの多くにも、セックスは魅惑的で自発的でロマンティックなものだという理想を必ずしも曲げたいと思わない人もいるからだ。
■若者の精神的依存は、真のパートナー関係にマイナス
もうひとつ、Morgentaler氏はバイアグラのマイナス面を指摘する。バイアグラはほかの2種類のED治療薬と共にインターネットで簡単に入手できるようになってきたが、「使う必要のない若い男性の使用が増えている」という。
こうした若者たちは「経験不足を気にしてか恥ずかしいのか、デートの度にバイアグラを飲んだりする。バイアグラによって自信がつくのかもしれないし、同じくインターネットで簡単に見ることのできるポルノビデオのせいで、セックスに対する考え方が誇張されているのかもしれない。『男らしさ』を高めたいという気持ちもあるんだろう」
しかし、身体的にバイアグラに依存症になることはなくても、心理的に離れられなくなる可能性をMorgentaler氏は懸念する。「セックスは関係性を築く入り口。そして多くの場合、私たちが関係性から求めるのは、あるがままの自分を愛されることだ。しかし、若い男性たちがバイアグラを飲まなければ女性に受け入れてもらえないと感じるとすれば、『神話』ではなく『真実』に基づいてパートナーとの真の感情的つながりを築く機会を失うこともありうる」と同氏は警鐘を鳴らした。(c)AFP/Karin Zeitvogel
バイアグラは米医薬品大手ファイザー(Pfizer)のファイザー研究所(Pfizer Laboratories)が「偶然」、開発した薬で1998年3月27日、米食品医薬品局(US Food and Drug Administration、FDA)に認可された。
ファイザーのブライアン・クレー(Brian Klee)シニア医療ディレクターはその誕生についてこう語る。「最初われわれが試験していたのは血管障害に対する研究で、バイアグラの主成分シルデナフィル(sildenafil)の血圧降下作用に関する効果だった。しかしその間、試験薬を使った人たちがそれを返してこないことに気づいた。その薬に、勃起の促進や持続時間を長くする効果があったからだった」
■外科処置のみだったED治療が飛躍的に容易に
発売以降、世界で3500万人の男性がバイアグラを使用し、性的不能の解消は飛躍的に容易になり、世間で話題にできないことのリストから消えた。勃起不全が「ED」という名前に呼びかえられるようになるとともに、バイアグラの効果が広く知れ渡りはじめると、泌尿器科医の待合室を訪れる人も急増していった。
それまでのED治療には外科手術が必要で、ペニスに人工器官を差し込んだり、男性器に注射したり、尿道に薬剤を入れるなどしていた。
「バイアグラのおかげで治療が簡単になり、診察室に来る人が増えた」と米ワシントン(Washington)州で40年の経験を持つ泌尿器科医アーウィン・シューマン(Irwin Shuman)氏はいう。「昔は治療法が少なかったので、原因が何かを突き止めるため検査をもっとしていた」上、試験の結果、治療が心理学の分野にまわされることも多かった。
バイアグラにより性的不能に対する働きかけが、心理学の領域から身体的な治療へと移った。「過去10年でEDは血管障害だということが明らかになってきた」とクレー氏はいう。「障害の原因は、ペニスに血液を送る静脈と動脈が、本来の働きをしていないことにある。バイアグラは血管を拡張させ、ペニスへ向かう血流を促進する効果がある」。
■関係改善に必ずしも役立つとはかぎらない
ボストンにある「メンズ・ヘルス・ボストン」の所長で、ハーバード大学医学部泌尿器科臨床学准教授のAbraham Morgentaler氏もバイアグラを評価する1人だ。しかし『The Viagra Myth(バイアグラの神話)』の著者でもある同氏は、使用した人全員が満足しているわけではないと指摘する。
「バイアグラには2つの真実がある。薬をもらったときはみんな嬉しそうだ。多くの人はEDが解消すればカップルの問題も解決すると思って、個人の幸せのためにバイアグラを求める。しかし、カップルの問題は解決せず、失望することもある」。
服用した人の中には、自分が求めるセックスにはふさわしくないと苦情を述べる人もいる。
バイアグラの効果が最大になるのは、空腹で服用した場合か低脂肪の食事の後であるとメンズ・ヘルス・ボストンのウェブサイトには書かれている。服用後約30分で効果が現れ、性的刺激があれば4時間ほど持続するとされる。
しかし、これがすべての人にとって納得できる答えとなるわけではない。Morgentaler氏は担当する78歳の男性から「プログラムされたセックス」という発想はいやだと言われたことがある。男性には、女性たちの多くにも、セックスは魅惑的で自発的でロマンティックなものだという理想を必ずしも曲げたいと思わない人もいるからだ。
■若者の精神的依存は、真のパートナー関係にマイナス
もうひとつ、Morgentaler氏はバイアグラのマイナス面を指摘する。バイアグラはほかの2種類のED治療薬と共にインターネットで簡単に入手できるようになってきたが、「使う必要のない若い男性の使用が増えている」という。
こうした若者たちは「経験不足を気にしてか恥ずかしいのか、デートの度にバイアグラを飲んだりする。バイアグラによって自信がつくのかもしれないし、同じくインターネットで簡単に見ることのできるポルノビデオのせいで、セックスに対する考え方が誇張されているのかもしれない。『男らしさ』を高めたいという気持ちもあるんだろう」
しかし、身体的にバイアグラに依存症になることはなくても、心理的に離れられなくなる可能性をMorgentaler氏は懸念する。「セックスは関係性を築く入り口。そして多くの場合、私たちが関係性から求めるのは、あるがままの自分を愛されることだ。しかし、若い男性たちがバイアグラを飲まなければ女性に受け入れてもらえないと感じるとすれば、『神話』ではなく『真実』に基づいてパートナーとの真の感情的つながりを築く機会を失うこともありうる」と同氏は警鐘を鳴らした。(c)AFP/Karin Zeitvogel