【3月24日 AFP】切断手術で手足の1部を失った人が存在しないはずの手や足に痛みを感じる「幻肢痛」は、マッサージをするようなしぐさを見せて脳に錯覚を与えることで治療できるかもしれない。このような研究結果が英科学誌ニュー・サイエンティスト(New Scientist)に発表された。

 米カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California, San Diego)神経科学研究所(Center for Brain and Cognition)のヴィラヤヌル・ラマチャンドラン(Vilayanur Ramachandran)所長は米国の退役軍人らと共同で、このような痛みが発生する理由とその解消法に関する実験を行った。

 第3者が握手や親指を立てるなど意図的なしぐさをするたびに反応する脳の「ミラー細胞」の重要な役割が、近年の研究で示されている。

 この脳細胞は一般の人が同様のしぐさを見たときにも反応することが分かっている。それならばなぜ、人が手をすりあわせたり拍手をしたりするのを見ても、一般の人には類似の感覚が発生しないのだろうか。

 これについてラマチャンドラン所長は、ミラー細胞が脳に送ろうとするメッセージを手の感覚細胞が阻止しているとみている。一方、手足を失った人にはこれらの感覚細胞が存在しないため、信号が脳に到達するというのだ。

 この仮説を証明するために、研究チームは、手を失った人に存在しない手があるように見せる「ミラーボックス」を作った。手を失った2人の被験者に対して手を触るのを見せたところ、両者とも失われた手がつつかれた感覚があったという。さらに、第3者の手がなでられるのを見ると、自分の失われた手がなでられたような感じを受けたという。

 被験者の1人は、第3者が手をすりあわせるのを見ると、ないはずの手に苦痛を伴う筋けいれんを感じ、けいれんを止めるのに最高15分かかったと報告している。

 ラマチャンドラン所長は「これを何度も繰り返せば痛みは永久になくなるだろう。友人やパートナーが手をすりあわせるのを見ることで、幻肢痛を取り除くことはできるかもしれない」と指摘している。(c)AFP