【2月21日 AFP】イラクでは戦争の混乱の中で頭脳の流出が相次いでいるが、イラクでたった1人の神経外科医になってしまったムニール・ファラジ(Munir Faraj)さん(40)は、イラクに居続けるという固い決意を秘めている。

 稼ぎは少ないが情熱は人一倍。ファラジ医師は、めがねの奥で目を輝かせながら「これは挑戦です。わたしの(外科)チームは、こういう状況の中で働く世界で唯一の集団なのです」

 バグダッドで学んだファラジさんは、2003年3月の開戦から、戦争で荒廃した市内の病院をなんとか立て直そうと取り組んできた。残がいを取り除くことから始め、壊れた器具を修理し、病院運営に必要な支援を取り付けるための交渉にも奔走した。

 脅迫状が送られてくるようになったファラジさんは、妻と2人の子どもを連れて4か月間シリアに避難し、1年前に戻ってきた。社会の再生に必要とされる人物を奪おうとする武装勢力にとって、医師は格好の攻撃対象になっている。

 ファラジ医師は、イラクを離れればいい給料がもらえることは知っていると語る。「わたしは仕事を愛している。海外に行ったら今のような仕事はできないだろう。イラクにいたいし、イラク人であることを誇りに思っている」

■10時間の高度な手術、代金はタダ

 ファラジ医師は、46歳のパーキンソン病患者の手術にのぞむ。小さな電極2枚を脳に埋め込むという、高度な技術を要する10時間の難しい手術だ。このような手術を行えるのは、バグダッド市内ではこの病院くらいなもので、手術代はタダだという。

 まず患者をMRIにかけるが、解像度が極めて低いために苦労する。しかし何とか分析は終わり、「イラク人は知恵者です」と言って笑った。300万ドル(約3億2400万円)があれば、脳腫瘍のガンマ線治療もできるようになるという。

 頭蓋骨の側面に穴を開け、小さな電極を5枚ずつ片側にミリ単位の間隔で慎重に挿入していく。最後に2枚の電極を埋め込む場所をできる限り正確に示すためだ。電極は、胸に埋め込まれた装置に接続されるという。局部麻酔のため患者の意識ははっきりしている。ファラジ医師は、目に恐怖を浮かべる患者に、「さあ行きますよ」と声をかけた。

 手術の翌日、ファラジ医師はAFPに電話をかけてきて、「手術は成功です。神に感謝します」と語ってくれた。患者も今ではとてもリラックスした様子で、「ペプシが欲しい」と看護師におねだりするほどだという。(c)AFP/Jacques Charmelot