【10月4日 AFP】手術や治療の際にトウガラシの成分を使って痛みの部分だけを狙い撃ちし、周辺にしびれの感覚を与えない夢の新世代麻酔薬開発にめどがついたと、米ハーバード大学医学部(Harvard Medical School)のブルース・ビーン(Bruce Bean)、クリフォード・ウルフ(Clifford Woolf)両氏が、4日付の英国の科学誌「ネイチャー(Nature)」に発表した。

 実用化されれば、出産する女性が麻酔で腰から下の感覚を奪われることがなくなり、運動選手は運動機能を一時的にも麻痺させることなくひざの手術を受けることができ、歯科医で歯を抜く治療もずっと快適なものになるという。

 ネイチャーに掲載された研究によると、まず、燃えるような感覚を与えるトウガラシの成分のカプサイシン(capsaicin)で、痛みを感じる神経細胞の粘膜にTRPV1という名前のナトリウム経路を作り出し、内部への入り口を形成する。その直後に、麻酔薬リドカイン(lidocaine)の誘導体であるQX-314を投与する。

 QX-314は単独で神経細胞の粘膜を突き破ることはできないが、カプサイシンの助けを借りて細胞内部に入り込み、痛みが発生していることを脳に伝える刺激を遮断する。一方で、痛みの感覚とは無関係の周辺の神経細胞にはTRPV1の経路が形成されないため、周辺にはしびれた感じは起こらず、運動神経も正常に働く。

 実験では座骨神経のあたりにカプサイシンとQX-314を投与したネズミを高熱の近くに置き、ナイロン製の注射針のような硬い棒でつついたが、通常よりも高い温度に耐え、つつかれても無感覚だった。平常通りの運動も続け、そのほかの刺激にはきちんと反応した。これは、痛みの刺激は遮断されても、運動制御機能は影響を受けなかったことを意味している。麻酔状態は2時間で消えたという。

 これをヒトに適用する場合、投与量などを決定することと、TRPV1を作る際のカプサイシンの燃えるような感覚をどう抑えるかが課題になるという。(c)AFP