【竹南/台湾 13日 AFP】台湾の科学者らが、高病原性鳥インフルエンザウイルスA(H5N1)型の流行に備え、細胞工学に基づいて開発されたワクチンの大量生産に向けた準備を進めている。

■ワクチン培地に新たな方法を導入

 開発に当たったのは、北西部・竹南(Chunan)にある国家衛生研究所・ワクチン研究開発センターのプロジェクトチーム。チームリーダーのPele Chong氏によれば、開発期間はわずか13か月、開発費用は4000万台湾ドル(約1億4300万円)だったという。

 通常、ワクチン培地にはニワトリの卵が使用されるが、同プロジェクトチームは「MDCK(Madin-Darby Canine Kidney:Madin-Darbyが作製した犬の株化腎臓)細胞」を用いた。Chong氏によれば、ワクチン作製におけるMDCK使用は世界初の試みだという。

 卵を使用しなかった理由の1つとしてChong氏は、鳥インフルエンザが発生した場合に卵そのものが不足する恐れがあることを指摘した。米バクスター・ワクチン(Baxter Vaccines)でも細胞工学に基づきワクチン開発を進めているが、使用培地はアフリカミドリサルの腎細胞である。

■広がるワクチン生産、人体用の開発も

 2003年以来、全世界で少なくとも171人が鳥インフルエンザの犠牲となっており、その大半はアジア諸国での発生と言われる。Chong氏らは今回のプロジェクトを通じ、台湾国内独自の鳥インフルエンザ対策を推進していくという。2008年には、ヒトを対象とする臨床治験を開始する見込みだ。

「人体に用いるワクチンには、、政府も我がチームも、治験に入る前に安全性を確実にしたいと考えています」とChong氏は話す。

 現在、研究所での月間ワクチン生産量は約7000錠だが、2007年末に試験的生産工場が完成後は、その10倍の生産量が見込まれる。台湾保健当局は、年間生産量1600万錠規模の工場建設を計画中という。

 ワクチン市場の拡大が目覚しいかに見える台湾だが、Chong氏によれば、かつては政府からの支援がなく困難を強いられた時期もあったという。

 「牛乳が欲しければ買えばいいじゃないか。牧場建設や牛の飼育について、頭をわずらわせる必要がどこにあるんだと言う人もいるでしょう。しかし問題は、たとえワクチンを買うお金があっても、ワクチンそのものが手に入らない可能性がある、そういうことなのです」(Chong氏)

 写真は国家衛生研究所で12日、作業を進める研究者。(c)AFP/Sam YEH