【3月2日 AFP】30年近くにわたり抑圧のシンボルとして嫌悪されてきたベルリンの壁(Berlin Wall)が1日、再び怒りの抗議を引き起こした。新たな住宅地開発計画により、現存する中で最長の壁の撤去作業が開始されたためだ。抗議に集まった老若男女約200人と壁の間には、警察官がいかめしい顔つきで立ちふさがった。

「ベルリンは自らとその歴史を売ろうとしている」「ベルリンの売り渡し」などと書かれたプラカードを掲げ集まったデモ参加者らは、「われわれの壁を残せ」との痛切な声を口々に叫んだ。「この壁は文化的遺産であり、イスラエルを除き世界で唯一、人々を分断する壁がある場所だ。それを体験できるようにすべきだ」とベルギー出身でベルリン在住の女性(32)は語る。

 デモ参加者らは、壁が人々にもたらした苦痛を理由に、この壁が忘れ去られることがないように保存すべきだと主張している。ベルリンの壁では、共産主義国家の東ドイツを逃れようとした多くの人々が悲劇的な死を遂げた。

 1961年に立てられたベルリンの壁は全長155キロメートルで、89年までベルリン市を東西に分断していた。ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)元米大統領はベルリンの壁崩壊の2年前、壁近くにある同市の名所「ブランデンブルク門(Brandenburg Gate)」で、ミハイル・ゴルバチョフ(Mikhail Gorbachev)元ソ連大統領に対して「この壁を取り壊せ!」と要請する有名な演説を行った。

 現存する壁を合わせた長さは約3キロで、その最長部分の1.3キロは「イースト・サイド・ギャラリー(East Side Gallery)」として知られている。90年以降、このギャラリーは色鮮やかなグラフィティ壁画で覆われるようになった。中でも有名なのは、旧ソ連のレオニード・ブレジネフ(Leonid Brezhnev)書記長と旧東ドイツの政治家エーリッヒ・ホーネッカー(Erich Honecker)議長の情熱的なキスシーンを描いた壁画だ。

 警察が拡声器を使い、壁の撤去作業を当面の間、停止すると発表し、作業員がクレーンの金具を取り外すために壁によじ登ると、群集からは歓声が沸き起こった。だが、懐疑的なムードは消えていない。 イースト・サイド・ギャラリー保存運動を始めたメンバーの1人、Robert Muschinskiさんは「クレーンが戻ってきたら、私たちもすぐ駆けつける。そのための人員は十分にいる」と語った。

 デモ参加者の1人はつぶやいた。「24年前、建設業者は何をしていたんだ?その時に壁を取り壊しておけば良かったんだ」

(c)AFP/Kate Millar