【9月21日 AFP】山岳国ネパールの中でも高峰が連なる秘境の地アッパー・ドルポ(Upper Dolpo)では、12年ごとに「世界最高所での競馬」が開催される。起源は800年前までさかのぼるという辰(たつ)年の祭り「シェイ・フェスティバル(Shey Festival)」だ。近隣の村々から仏教徒や僧侶たちが集まって祈りを捧げ、宴を祝い、ヒマラヤで最も早い騎手と馬を決めるレースを楽しむ。

 1日に行われた今年のレースには、ヒマラヤ山中に点在する村々から約50人が参加。祭りのために山道を数日間歩いてやってきた村人や僧侶たち数千人が見守るなか、伝統衣装に身を包んだ騎手たちは角笛の音を合図に、華やかな装飾が施された愛馬を駆って山中に飛び出していった。

 標高4300メートル、狭い峡谷の底を駆け抜ける全長1.6キロのコースは狭く、岩がごろごろ転がっていて危険に満ちている。低酸素の中、凍えるほど冷たい川も渡らなければならない。

 あまりに過酷なコースに、騎手たちが次々と脱落していく。折り返し地点では3人がバランスを崩して岩だらけの川底に投げ出された。ゴール近くでは5人が折り重なるように倒れ、川に転げ落ちた馬は川の冷たさを観客に訴えるように大きくいなないた。 

 今年のレースを制したのは、旧王国ムスタン(Mustang)から参加した農民のテンジン・グルン(Tenzin Gurung)さん(23)と、一世一代のレースを披露したグルンさんの愛馬ティカ(Tika)だ。

 主催者はレースをギャンブルの対象にしたり、勝者に賞金を与えることは「仏教的ではない」との考えだが、グルンさんとティカには1000ルピー(約1000円)札紙幣がばらまかれた草原を駆ける権利が与えられた。ティカに騎乗したまま、速度を落とさず走りながら拾えた紙幣がグルンさんの賞金となるのだが、グルンさんが手にできたのは3000ルピーだった。ヒマラヤでは子ども1年分の学費に相当する。

 グルンさんは「すごく気分がいいし幸せだ。ムスタンでもティカと一緒に多くのレースに勝利してきたんだ」と語った。(c)AFP/Frankie Taggart