発禁本が人気で高値に、ベトナム文化事情
このニュースをシェア
【1月29日 AFP】冒とく的な漫画から「堕落した」ショートストーリーまで、ベトナムの検閲当局は同国のポップカルチャーにくぎ付けになっている。慎みのない文学シーンの広がりに当局が苦慮していると、専門家らは指摘する。
長年、印刷媒体から政治的文書を排除してきたベトナム当局は今、成長する若者向け出版市場に注目している。この数か月で、すでに数冊の書籍が発売禁止処分を受けた。
グエン・タン・フォン(Nguyen Thanh Phong)さん(26)の漫画も最近、発禁処分になった。愚かそうな兵士2人が手りゅう弾を蹴り合っているイラストが、検閲当局の怒りを買ったのではないか、と本人は語る。
そのイラストに付けられたキャプションには「兵士たる者、常に注目を浴びなければならない」と書かれている。誇張され、英雄視されるベトナム軍兵士をからかう意図だ。「笑えると思ったんだ」とフォンさんは語り、検閲は読者の好奇心をあおるだけだと指摘する。
フォンさんの『膿(うみ)の詰まった頭をもつ殺人者』と題された漫画は、ベトナムの若者たちによる「ストリート文化の方言」を映し出した作品だ。
フォンさんによると、この漫画は2週間で5000部を販売したところで発売中止となったが、今では闇取引で定価の2倍の最高10万ドン(約380円)の高値が付いているという。
ベトナムの18歳未満人口は2800万人。裕福になる可能性を秘めたこの層から利益を上げたいと考えてきた同国の出版社にとって、当局の検閲は悩みの種だった。だが一方で、検閲によって出版物に「悪名」という魅力が帯びる効果もある。「意図せずして連鎖反応的な広告になっている。ベトナムでは、発禁処分にされた書籍はベストセラーになる。みんな気になるんだ」と、フォンさんはAFPに語った。
■ベトナムの自由な「9X世代」
米カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California, San Diego)のベトナム専門家、エドモンド・マレスキー(Edmund Malesky)氏は、発禁問題によって「書店の店頭では読みたいと思いもしなかった多くの人々が関心を持った」からだと分析する。
また、フォンさんの漫画には「『9X世代』と呼ばれる90年代生まれの若者たちが使うクールな言い回しがたくさん含まれている」と言う。この世代は「自由な精神」でベトナムの古い世代を驚かせてきた。
ベトナムの中の保守的な人びとは、人気歌手のふざけた行動から、路上に書かれた恥知らずなファッション哲学まで、押し寄せる若者文化の波の中で、自分たちが笑いものにされていることに気づいている。
ベトナムの研究者、カール・セア(Carl Thayer)氏は、若者向け書籍の出版が増えているものの、「ポップカルチャーは、当局のベトナム文化に対する考えと間違いなく相反する」と語る。「ベトナムは独裁体制なので、当局が本物の世論を正確にとらえる方法がない。彼らは心の奥深くで、政治風刺や、もっと公然とした政治的出版物を恐れている。それらは当局の権力と正統性に対する挑戦だからだ」
セア氏は、ベトナムの闇市場について「需要があるから活況だ」と語り、こうした出版物が「プライベートな会話で自由にやりとりされている事実や考えを、印刷物として提供している」と指摘した。
一方、ベトナム文化省の芸術出版部門の副責任者、ダン・ティ・ビチ・ガン(Dang Thi Bich Ngan)氏は『殺人者』の出版差し止めについて、許可された版の後に変更が加えられていたからだと説明した。
また、ジャーナリストのグエン・ビン・グエン(Nguyen Vinh Nguyen)氏のショートストーリー集も「ベトナムの伝統や慣習に合わない、堕落したポルノ的な考えを広めた」として発売が禁止され、出版社には罰金が科された。
■すぐに入手できた発禁本
ハノイ(Hanoi)の街路でAFP記者が『殺人者』を入手するのに、そう時間はかからなかった。
ある店主が、店の棚には置いていないと言って、倉庫から1冊持ってきた。店主は本を売る際に、乱れたベトナム語が使われているというこの漫画の売り文句を言うのを忘れなかった。「子どもに見せちゃダメだよ!」
多くのベトナム人は、フォンさんの漫画をウェブサイトで閲覧している。「この本に反対する人は、インターネット上にある文章なら問題ない、書籍だから問題だ、と言う。たぶん彼らは、書籍をとても気品のある、知の聖地のように思ってるんだろうね」とフォンさん。
当局は、フォンさんの漫画の改訂版の出版を認める考えを示唆しているという。フォンさんは、一部のイラストが削除され、スラングも一部は別の人気スラングで置き換えられることになるだろうが、内容が薄まったとは思われないだろうと自信ありげだ。
フォンさんのその楽観は、彼の漫画に出てくるベトナム・ストリート文化のある典型的な言い回しに表れているかもしれない。そのイラストは死んだイヌが丸ごと食卓に乗り、そこにこうフレーズが付けられている。「心配するな、問題はない。なぜなら犬の肉は、いつもエビのソースをかけてから出てくるから」(c)AFP/Kelly Macnamara
長年、印刷媒体から政治的文書を排除してきたベトナム当局は今、成長する若者向け出版市場に注目している。この数か月で、すでに数冊の書籍が発売禁止処分を受けた。
グエン・タン・フォン(Nguyen Thanh Phong)さん(26)の漫画も最近、発禁処分になった。愚かそうな兵士2人が手りゅう弾を蹴り合っているイラストが、検閲当局の怒りを買ったのではないか、と本人は語る。
そのイラストに付けられたキャプションには「兵士たる者、常に注目を浴びなければならない」と書かれている。誇張され、英雄視されるベトナム軍兵士をからかう意図だ。「笑えると思ったんだ」とフォンさんは語り、検閲は読者の好奇心をあおるだけだと指摘する。
フォンさんの『膿(うみ)の詰まった頭をもつ殺人者』と題された漫画は、ベトナムの若者たちによる「ストリート文化の方言」を映し出した作品だ。
フォンさんによると、この漫画は2週間で5000部を販売したところで発売中止となったが、今では闇取引で定価の2倍の最高10万ドン(約380円)の高値が付いているという。
ベトナムの18歳未満人口は2800万人。裕福になる可能性を秘めたこの層から利益を上げたいと考えてきた同国の出版社にとって、当局の検閲は悩みの種だった。だが一方で、検閲によって出版物に「悪名」という魅力が帯びる効果もある。「意図せずして連鎖反応的な広告になっている。ベトナムでは、発禁処分にされた書籍はベストセラーになる。みんな気になるんだ」と、フォンさんはAFPに語った。
■ベトナムの自由な「9X世代」
米カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California, San Diego)のベトナム専門家、エドモンド・マレスキー(Edmund Malesky)氏は、発禁問題によって「書店の店頭では読みたいと思いもしなかった多くの人々が関心を持った」からだと分析する。
また、フォンさんの漫画には「『9X世代』と呼ばれる90年代生まれの若者たちが使うクールな言い回しがたくさん含まれている」と言う。この世代は「自由な精神」でベトナムの古い世代を驚かせてきた。
ベトナムの中の保守的な人びとは、人気歌手のふざけた行動から、路上に書かれた恥知らずなファッション哲学まで、押し寄せる若者文化の波の中で、自分たちが笑いものにされていることに気づいている。
ベトナムの研究者、カール・セア(Carl Thayer)氏は、若者向け書籍の出版が増えているものの、「ポップカルチャーは、当局のベトナム文化に対する考えと間違いなく相反する」と語る。「ベトナムは独裁体制なので、当局が本物の世論を正確にとらえる方法がない。彼らは心の奥深くで、政治風刺や、もっと公然とした政治的出版物を恐れている。それらは当局の権力と正統性に対する挑戦だからだ」
セア氏は、ベトナムの闇市場について「需要があるから活況だ」と語り、こうした出版物が「プライベートな会話で自由にやりとりされている事実や考えを、印刷物として提供している」と指摘した。
一方、ベトナム文化省の芸術出版部門の副責任者、ダン・ティ・ビチ・ガン(Dang Thi Bich Ngan)氏は『殺人者』の出版差し止めについて、許可された版の後に変更が加えられていたからだと説明した。
また、ジャーナリストのグエン・ビン・グエン(Nguyen Vinh Nguyen)氏のショートストーリー集も「ベトナムの伝統や慣習に合わない、堕落したポルノ的な考えを広めた」として発売が禁止され、出版社には罰金が科された。
■すぐに入手できた発禁本
ハノイ(Hanoi)の街路でAFP記者が『殺人者』を入手するのに、そう時間はかからなかった。
ある店主が、店の棚には置いていないと言って、倉庫から1冊持ってきた。店主は本を売る際に、乱れたベトナム語が使われているというこの漫画の売り文句を言うのを忘れなかった。「子どもに見せちゃダメだよ!」
多くのベトナム人は、フォンさんの漫画をウェブサイトで閲覧している。「この本に反対する人は、インターネット上にある文章なら問題ない、書籍だから問題だ、と言う。たぶん彼らは、書籍をとても気品のある、知の聖地のように思ってるんだろうね」とフォンさん。
当局は、フォンさんの漫画の改訂版の出版を認める考えを示唆しているという。フォンさんは、一部のイラストが削除され、スラングも一部は別の人気スラングで置き換えられることになるだろうが、内容が薄まったとは思われないだろうと自信ありげだ。
フォンさんのその楽観は、彼の漫画に出てくるベトナム・ストリート文化のある典型的な言い回しに表れているかもしれない。そのイラストは死んだイヌが丸ごと食卓に乗り、そこにこうフレーズが付けられている。「心配するな、問題はない。なぜなら犬の肉は、いつもエビのソースをかけてから出てくるから」(c)AFP/Kelly Macnamara