【9月7日 AFP】9.11米同時多発テロからまもなく10年。倒壊した世界貿易センタービル(World Trade CenterWTC)から立ち昇った煙は、文学の世界ではまだ収まっていない。精神的・肉体的喪失を探究する旺盛な創作活動にインスピレーションを与え続けているのだ。

 事件当時、世界中がテレビの生中継映像を通じて体感した恐怖に、真っ向から挑もうとした作家は、ごくわずかだった。超写実主義を採用し、破滅的な瞬間(航空機の激突、火災、パニック、ビルから飛び降りる人々)をも克明に描いた最初の作家は、仏作家フレデリック・ベグベデ(Frederic Beigbeder)だ。『Windows on the World(ウィンドーズ・オン・ザ・ワールド)』(2003)の中で、ベグベデは「もはや語りえないことを語りたかった」と述べている。「2001年9月11日の午前8時半から10時29分の間に世界貿易センタービル北棟107階のレストランで起こったことを知る唯一の方法は、創作することだった」と、当時説明している。

■9.11を直接的に描いた作品

 以後、世界の偉大な作家たちが、9.11後のトラウマという問題に取り組み、悲劇の全体像と歴史の中の位置付けを把握する試みにおいて、作品を発表してきた。

 英作家マーティン・エイミス(Martin Amis)は07年、次のように記した。「9.11は世界規模での道徳観の衝突を招いた。あの事件、そしてその後の様々な出来事といった経験が、何の摩擦もなく吸収され、片づけられたと考えるべきではない。実際はそうではないのだ」「9.11は謎、不安定性、そして恐るべきダイナミズムを伴って今後も続いていく」・・・エイミスはその後、9.11に関するエッセイ・短編集『The Second Plane(2機目の飛行機)』を出している。

 米作家ドン・デリーロ(Don DeLillo)も、9.11に影響を受けた1人だ。01年11月には早くも、『崩れ落ちた未来にて――テロ、喪失、九月の影に覆われた時間(In the Ruins of the Future)』というエッセイで、作家が9.11の恐怖とどう向き合うべきかを提言している。「空にはいくぶん空白がある。作家は荒涼とした空白を、思い出と優しさと意義で満たそうと努めている」

「生き延びるために必死に逃げた人々も、われわれに残された9.11の物語の一部だ」と語るデリーロ。08年には『墜ちてゆく男(Falling Man)』を執筆した。9.11を生き延びた男の日々と疎遠になった妻との関係などが描写されるが、繰り返し現れる象徴的な登場人物が、スーツ姿で高層ビルから宙吊りになるパフォーマンスアーチストだ。これは、カメラマンのリチャード・ドリュー(Richard Drew)が炎に包まれた北棟からまっさかさまに落ちる男性を撮影した有名な写真のポーズを真似ているのだという。

 同じ08年、米作家ジョン・アップダイク(John Updike)は『Terrorist(テロリスト)』を発表した。ジハード(聖戦)を支持する米国生まれの10代のイスラム教徒の物語を一人称で語ることで、イスラム原理主義者の動機に迫っている。

 米作家フィリップ・ロス(Philip Roth)は07年の作品『Exit Ghost(亡霊は去る)』で、作家の分身で語り手としておなじみのネイサン・ザッカーマンとして、ニューヨーク(New York)に舞い戻る。米作家ジェイ・マキナニー(Jay McInerney)は、9.11前夜にディナーテーブルを囲んだ仲良しグループが恐怖のどん底に叩きこまれる様子を描いた『The Good Life(素晴らしい人生)』を06年に発表した。

■9.11を間接的に描く傾向に

 最近では、攻撃そのものやトラウマ、その影響といった、フィクションでは描ききれない大きすぎるテーマから徐々に離れる傾向がある。

 自宅のバルコニーから世界貿易センタービルの倒壊を目の当たりにした米作家ポール・オースター(Paul Auster)は08年、『Man in the Dark(闇の中の男)』を発表した。物語中に9.11はなく、内戦が勃発するという設定だ。

『コレクションズ(Corrections)』で知られる米作家ジョナサン・フランゼン(Jonathan Franzen)は昨年、9.11から10年後を描いた『Freedom(自由)』を上梓した。物語は9.11を直接扱ってはいないが、9.11を背景に、Berglund家の崩れゆくきずなや道徳が描かれている。(c)AFP/Myriam Chaplain-Riou

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