【2月24日 AFP】イタリアの骨董品店の片隅で、かびの生えたボール紙の箱に入って埋もれていたテラコッタ彫刻―─この像が、ルネサンス期を代表する芸術家ミケランジェロ(Michelangelo)の名作、聖母子像「ピエタ」(Pieta)の習作だという主張を裏付ける証拠を、米国の「美術探偵」がこのほど本に著した。

 この発見に関する著書が23日に出版されたロイ・ドリナー(Roy Doliner)氏は、ローマ(Rome)でAFPの取材に応じ、「初めて目にしたときは美しすぎて、10分ほど口がきけなかった。言葉で表すのは不可能な技巧。一目でミケランジェロのオリジナルだと分かった」と語った。

 美術ライターでもあるドリナー氏が前年12月、この像について最初に公表した際、イタリアの美術批評家らは、同じくルネサンス期の別の彫刻家、アンドレア・ブレーニョ(Andrea Bregno)の手によるもので、ただしこの作品にインスパイアされてミケランジェロが後に有名なピエタ像を制作したのだと論じた。

 一方のドリナー氏は、ミケランジェロは若い頃、大理石の彫刻を本格的に制作する前によくテラコッタで習作を行っていたとして、イタリアの美術批評家らの説に真っ向から挑戦する。像の所在は現在、ジャーナリストの写真撮影以外は公開されていない。

■独学の「ミケランジェロ専門家」

 像は、個人コレクターが骨董品店でこの像を見つけて購入し、修復した。この収集家は像の下部に何か刻まれているのを発見し、それがユダヤを象徴する記号で、ミケランジェロ作であることを証明するものだと考えた。

 しかし従来の美術史家たちに反論され、このコレクターは、独学でミケランジェロをめぐる謎を専門に解く歴史考証家に転じた経歴の持ち主で、ローマのシスティーナ礼拝堂(Sistine Chapel)の天井に隠された暗号に関する著書のあるドリナー氏を頼った。

「(骨董品店で)発見された時は、セロハンテープが巻かれ、色も上から何度も塗り直されていて、安っぽい模造品のように見えたそうだ。修復には3年がかかった」とドリナー氏。「修復家たちは考え得るあらゆる科学的試験を行って、制作年代を1473~96年に絞り込んだ」という。時期的にはミケランジェロ、ブレーニョのどちらの活動時期にも当てはまる。

 その後、コレクターが気づいたというユダヤのシンボルのような印は、単にテラコッタを窯で焼く工程でついたものであることが判明したが、ドリナー氏の好奇心は高まり、作者を突き止めたいという思いにつながった。「長年ミケランジェロの研究を続けてきて、ミケランジェロの様式というものをすぐに感じ取れるんだ」

 この像がブレーニョ作であることは、ありえないとドリナー氏は言う。ブレーニョは高位の司祭たちの壁棺を専門に制作していたため、テラコッタを使った作品はなく、構想にはスケッチを好んでいたからだと説明する。

 また、像の大きさもミケランジェロ作だという根拠になると指摘する。当時のイタリアの計測法は各都市国家によって異なっており、この像の基底部の58.3センチという長さは、ミケランジェロが育ち、彫刻を学んだフィレンツェ共和国(現トスカーナ州)の単位と一致するのだ。

 この彫刻の素性に迫ったドリナー氏の著作『Il Mistero Velato(暴かれた謎)』は、英語版が23日に発売された。(c)AFP/Ella Ide