【6月10日 AFP】今から150年以上前にイタリアの貴族によって盗まれたまま所在が分からなくなっていた17世紀フランスの哲学者ルネ・デカルト(Rene Descartes)の書簡が、このほどグーグル(Google)の検索で発見され、所蔵していた米大学の図書館からフランスへ8日返還された。

 この書簡は「我思う、ゆえに我あり」の言葉で有名なデカルトが1641年に、友人でデカルトの著作の編集者でもあったマリン・メルセンヌ(Marin Mersenne)に宛てたもので、当時出版を目前にしていた代表作『省察(Meditations on First Philosophy)』の修正箇所など重要なことがらが記されている。しかしこの書簡は、イタリアの貴族グリエルモ・リブリ(Guglielmo Libri)伯爵が盗んだとされる大量の古文書コレクションとともに行方が分からなくなっていた。

「家のパソコンで夜遅くにちょっと検索するだけで見つかるとは、もちろん思わなかった」と驚くのは、書簡の現在の所蔵先を発見したオランダのデカルト研究者、エリク・ヤン・ボス(Erik-Jan Bos)氏だ。1月の深夜、グーグルのウェブ検索で「autographed letter(自筆書簡)」と「Descartes(デカルト)」の2つの検索キーワードを入力しただけで、150年以上前から姿を消していた書簡が現れたのだ。所蔵していたのは米ペンシルベニア(Pennsylvania)州のハーバーフォード・カレッジ(Haverford College)だった。

 19世紀にフランスの大学で数学を教えていたイタリア人のリブリ伯爵は、古文書の研究もしていたが、研究中に数万点の古い書簡や文書を盗み、コレクターや古書商に売却したとみられている。見つかったデカルトの書簡は、その中の一点だったと思われる。伯爵は英国へ逃亡した後、フランスで欠席裁判にかけられて有罪とされたが、保管されていたデカルトがメルセンヌに宛てた書簡75通のうち72通を盗んだとみられている。

 ボス氏が大学にその場でメールで連絡を取ると、すぐに返信が来た。大学側は学内図書館の特別コレクションに書簡が存在することは知っていたが、それがフランスで盗まれたものだとは考えていなかった。しかし、このたび元の所蔵主であるフランス学士院(Institut de France)に書簡を返還する運びとなった。

 デカルトの書簡は先ごろもスイスで1通、競売に掛けられたが、フランス学士院では必要な15万ユーロ(約1640万円)を調達できず、買い戻すことができなかった。

 8日、パリ(Paris)のフランス学士院で今回発見された返還式が行われた。木製の箱に収められた全4ページの書簡を、米国からハーバーフォード・カレッジのスティーブン・エマーソン(Stephen Emerson)学長と同大学のコレクション責任者、ジョン・アンデリーズ(John Anderies)氏が携えた。式にはグーグルで発見したボス氏、デカルト研究の専門家である仏哲学者ジャン・リュック・マリオン(Jean-Luc Marion)氏らが立会い、書簡は里帰りを果たした。

 ハーバーフォード・カレッジは手ぶらで帰ったわけではない。書簡の返還にあたりフランス学士院はハーバーフォード・カレッジに1万5000ユーロ(約160万円)を寄付した。(c)AFP/M.J. Smith