【5月10日 AFP】1989年のある日、パリ(Paris)の工芸店内を見て回っていた坂茂(Shigeru Ban)氏は、中国の竹製の帽子を見つけ手にとった。建築家である坂氏は、そのデザインに興味をそそられた。

 坂氏はAFPに対し、「素材の組み合わせに目を見張った」と語る。竹の骨組みに水をはじく紙、その下には乾燥した葉っぱが断熱材として使われており、まさに「建物の屋根と同じ構造」だったのだという。

 それから20年間が経ち、この帽子は、フランス最高の近代美術館「ポンピドー・センター(Pompidou Centre)」の分館のデザインに生かされることになった。ポンピドー・センターの分館は12日に、同国メス(Metz)市にオープンする。その屋根部分は、中国の帽子のような柔らかさをもつものだ。

 坂氏はパリのポンピドー・センターに近いオフィスで取材に応じ、「これまでで最大のプロジェクトだった」「この屋根について研究するため、多くの建物のデザインを行ってきたが、こんなに大きな木組みの屋根を作った人はいないだろう」と語った。

 坂氏によると、ポンピドー・センターは非常に特別な現代美術館であり、その名声ゆえに大きなプレッシャーがかかったという。建物1階のガラスのファサードの上に木組みの屋根が乗っており、来館者を温かく迎えてくれる。背が高い靴箱のような形の3つのギャラリーがあり、最上階の窓からはメス市が一望できる。

 坂氏は、「世界のどこにでもある建物のデザインではなく、何か文脈的なものを見つけたかった。美術館と街を結びつけたかった」と説明する。一方で、パリの本館は「周囲の建物とは全く反対なもの」になるよう意図されており、「どちらが優れているのか言えないが、わたしのデザインは、メスの町に非常によく合っていると思う」と語った。

 ポンピドー・センター分館は、5000平方メートルの展示面積を誇り、アンリ・マチス(Henri Matisse)やパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)、ジョアン・ミロ(Joan Miro)などの貴重な作品を展示する。

 フランスでは、ルーブル美術館(Louvre Museum)が2012年にランス(Lens)に別館をオープンさせるが、この設計は、設計事務所「SANAA」の建築家、妹島和世(Kazuyo Sejima)氏と西沢立衛(Ryue Nishizawa)氏が担当している。(c)AFP/Roland Lloyd Parry