【9月15日 AFP】ウィーン美術史美術館(Kunsthistorisches Museum)が、同館が誇るコレクションの1つ、17世紀オランダ絵画の巨匠ヨハネス・フェルメール(Johannes Vermeer)の名作「絵画芸術(The Art of Painting)」を手放すことになるかもしれない。

 オーストリア文化省は前週末、同館で1946年から展示されているこの絵について、以前の持ち主が返還を求めていることを明らかにした。「絵画芸術」は1940年、ナチス(Nazis)・ドイツ併合下のオーストリアで、アドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)が同国北部のリンツ(Linz)に建設を計画していた美術館に所蔵するために購入したものだ。

 オーストリア政府は1998年に「美術品返還法」を制定し、ナチス・ドイツがオーストリアを併合した1938年以降にナチスが略奪した美術品1万点あまりを、正当な持ち主に返還してきた。

 2006年には、ウィーン(Vienna)のベルヴェデーレ美術館(Belvedere Museum)がオーストリアの画家グスタフ・クリムト(Gustav Klimt)の代表作5枚を、以前の持ち主の子孫に返還。リンツ市も今年4月、同じくクリムトの絵画を、ナチス・ドイツの「第三帝国」時代に略奪されたものだと主張するユダヤ人家族に返還している。

■「絵画芸術」に関する議論

 だがフェルメールの「絵画芸術」に関しては議論の余地があると、専門家らは指摘する。

 この絵は19世紀以降、ウィーンの貴族ツェルニン(Czernin)家が所有していたが、1940年に当時の当主ヤロミール・ツェルニン(Jaromir Czernin)伯爵が、ヒトラーに165万ライヒスマルク(1925-48年のドイツの通貨単位)で売却した。

 ツェルニン家は1960年代に同作品の返還を要求しているが、この時は、売却は当主の自発意志によるもので売却価格も適正だったとして、要求は却下されている。

 この点について、ツェルニン家の委託をうけた専門家集団はこのほど、売却は強制されたものだったとする報告書をまとめた。同家の弁護士はDer Standard紙に対し、「家族の安全を守るため、当主には絵画を売る以外の選択肢はなかった」と話している。

 フェルメールの作品は世界に30数点しか現存していないこともあり、この「絵画芸術」は、かなりの価値があるとみられ、ウィーン美術史美術館のサビーネ・ハーグ(Sabine Haag)館長は「(手放すとしたら)非常に大きな喪失だ」と話している。(c)AFP/Philippe Schwab