【9月3日 AFP】携帯電話端末iPhoneがあれば、ゼウスは時間をかけずに天から稲妻を落とさせることができただろう――。ギリシャ神話の神々と最新機器を組み合わせた作品を作る彫刻家のアダム・リーダー(Adam Reeder)さん(33)はこう語る。

「芸術は、我々が生きている時代について伝えるときに使うもの」。米カリフォルニア(California)州を拠点に活動するリーダーさんは、西洋文明の遺物と最新の技術を融合させたいという。

 リーダーさんはギリシャ神話の牧神パン(Pan)のトレードマークである笛をアップル(Apple)の音楽プレーヤーとヘッドホンに置き換えた。

「パンはいまもミュージシャンだし、踊ってるんだけど、iPodを聞いてるんだ」

 リーダーさんは、アトラスが支える天空も巨大なiPodに変えてしまった。

 その他にも、2000年以上前に作られた酒の神の従者「Drunken Satyr(酔っぱらったサテュロス)」の像を、その手にテレビゲームのコントローラーを持たせ、「スリーピング・ゲーマー(眠りこけたゲーマー)」に変えた。

 テレビゲーム「ギアーズ・オブ・ウォー(Gears of War)」のデザイナー、クリフ・ブレジンスキー(Cliff Bleszinski)氏は、「スリーピング・ゲーマー」の複製を購入。「サテュロスが1000年間ゲームをして、意識を失ったみたいだ」と語る。

「彼の作品は巨匠たちと張り合っているように見えるが、あえて言えば、ちょっとウィンクしてるんだ」

■芸術の世界におけるインターネット

 リーダーさんは、インターネット世代の革新は自分のアートを生き生きとさせるだけでなく、成功を支えてくれただけでなく、文明と同じくらい古い産業に新しいビジネスモデルを作るのに役立ったと主張する。

 さらに保守的な芸術家とは違い、関心を引きさらには購入者に見てもらうため、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)、ブログ、動画共有サイト「ユーチューブ(Youtube)」などのオンラインツールをしっかり活用しているという。

 しかし、デジタル革命を利用する産業界が多い一方で、自分の作品をPRするためにソーシャルネットワークを活用するとなると当惑する芸術家が多い、と語るのは、Micaela Van Zwollさん。Zwollさんはインターネットでリーダーさんを知り、サンフランシスコ(San Francisco)にある自分のギャラリーにその作品を展示する予定だという。「象牙の塔に住みたがり、世界が自分を探し出してくれるのを待つ芸術家の話をよく聞くが、ひどくごう慢だ。今は21世紀で騒々しい世の中なんだ」

 リーダーさんによると、ほかの多くの産業と違わず芸術産業にも激しい競争があり、インターネットで自分をPRすることは必須なのだという。

 リーダーさんの展示会を31日まで開催していた米アカデミーアート大学(Academy of Art University)のエリック・ブローム(Erik Blome)さん(42)は、「(米現代芸術家の)アンディ・ウォーホル(Andy Warhol)は、われわれはまさに(米の)ブルーミングデール百貨店のようだと言いたかったし、ウォーホルは正しかった」と語る。

「アダム(リーダーさん)は、どれだけウォーホルに恩があるのかあまり気づいていない。大量生産、テクノロジー、それらはすべて彼のメッセージなんだ」 

 ブロームさんは、自分の作品をフェースブック(Facebook)で共有したいと言われるが、彫刻作品をオンラインで共有するということになると、自分は時流に乗り遅れていると認める。

 ソーシャルネットワーキングサービスに反対しないが、大勢のフェースブックユーザーの中で目立とうとするのは、芸術家にとっては困難なことだと語る。

「50歳以上の人ならだれだって、ブログやメールが芸術家のためになるなんていう考えには、強く反対するだろう。列に並んで、自分を見つけてもらうのを待たなければならないってことだろう」

 しかし、リーダーさんが、ギャラリーを通さずにウェブサイトを通じて作品を売り込んだだけでなく、ブロームさんの展示会の大半もまた、インターネットを通じて実現したという。

「将来の購入者は若者。20年後に自分の作品を買う人物を知りたかったら、いま20歳の若者を見ればいい。時代に遅れず、将来も自分の作品を買ってほしければ、フェースブックを使うべきだ」(c)AFP/Ian Sherr