【6月27日 AFP】第2次世界大戦時、ナチス・ドイツ占領下のフランスでユダヤ人から略奪された美術品の展覧会が25日、パリ(Paris)で開幕した。

 1940年から44年にかけ、ナチスに協力的だったビシー(Vichy)政権下では、ユダヤ人所有の美術品の略奪が組織的に行われていた。ビシー政権下で人種法により権利を奪われ、国外へ亡命、または強制収容所へ送られたユダヤ人の家から、ドイツ軍は10万点もの絵画、骨董品、工芸品、タペストリーなどを略奪した。「Looking for owners(所有者を探しています)」と題された同展覧会には、その多くが戦前の所有者をたどることのできない53点が展示されている。

「当時フランスは占領下にあった。ユダヤ人は第三帝国の敵とみなされ、さらにビシー政権の法律で苦しんだ。彼らは一切の法的保護を得られなかった」と語るのは同展を主催するMuseum of the Art and History of JudaismLaurence Sigal-Klagsbald館長。

 学芸員のIsabelle le Masne de Chermontさんは「ナチスは法の下で行動した。フランス人が国内のユダヤ人の権利を奪い、ナチスがそれに乗じた」と語る。

■セザンヌやモネの作品も

 同展には、ポール・セザンヌ(Paul Cezanne)、エドガー・ドガ(Edgar Degas)、ジャン・オーギュスト・ドミニク・アングル(Jean-Auguste-Dominique Ingres)、クロード・モネ(Claude Monet)、ギュスターヴ・クールベ(Gustave Courbet)らの名作も展示されている。いずれもドイツの美術館や収集家が購入したもので、売買契約は戦後になってから無効と判断されている。

 1945年以降、敗戦したドイツ人は占領地域で購入または略奪した全美術品の返却を求められた。連合軍の専門家がナチスのリストを綿密に調べ上げ、フランスに返却された美術品のうち4万5000点から6万点は1949年までに無事、元の所有者に返還された。残る数万点のうち約1万3000点は売却された。さらに2000点は、フランスの国立美術館が共同運営する回収作品保管部門「MNR」に所蔵されている。今回、53点の作品を出品したのもこの「MNR」だ。

「MNR」所蔵の作品の多くは、ナチスの記録や証印をもとにユダヤ人からの略奪品であることがわかっているが、元の所有者は判明していない。元の所有者が国に寄贈した作品や、戦時中に売却され、戦後に返却された作品もある。

 同展には絵画のほか、略奪の様子を示す写真や資料も展示されている。パリ在住の3万8000人を含むユダヤ人が亡命または強制収容所に送られ、誰もいなくなった家で略奪が行われたのだ。

■組織的略奪の全貌

 1940年6月、フランスがナチスに占領された日からわずか数週間後、ドイツ大使館はロスチャイルド(Rothschild)家のコレクションも含むユダヤ人所有の美術品をターゲットに、最初の没収命令を出した。

 さらに数か月後、占領地域の美術品の押収を任務とする機関「Einsatzstab Reichsleiter RosenbergERR)」が組織的な略奪を始めた。略奪した美術品はルーブル(Louvre)美術館やジュ・ドゥ・ポーム(Jeu de Paume)美術館に集められ、約2万2000点が貨物列車でドイツへ送られた。

 1942年になると、家具、陶器、美術品などあらゆる物がユダヤ人の家から押収された。

 イスラエルの首都エルサレム(Jerusalem)でも行われた同展のパリでの会期は10月26日まで。(c)AFP