【4月29日 AFP】世界中で上演されてきたウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(Wolfgang Amadeus Mozart)の名作オペラ『魔笛(The Magic Flute)』。このオペラの一風変わった現代版が26日、ベルリン(Berlin)市内の地下鉄の駅で公演初日を迎えた。

 会場となるのは、ただの駅ではない。ベルリンを世界有数の首都に変貌(へんぼう)させることを目指し20年がかりで進められている巨大プロジェクトの一環として建設された地下鉄「連邦議会駅(Bundestag)」だ。 

■現代版『魔笛』には、ホームレスや清掃作業員らが登場

 1791年にウィーン(Vienna)で初演の『魔笛』は今回、前衛的なオペラ監督Christoph Hagel氏によって21世紀の作品として生まれ変わった。

 オリジナル版では頭からつま先まで羽で覆われているパパゲーノ(Papageno)は、Hagel版では、国からの援助に頼って生きるホームレスに変わっている。演じているのは、ドイツのロックバンド、ゼーリッヒ(Selig)の元フロントマンJan Plewka。物語は、二日酔いのホームレスが地下鉄の駅で眠っているところから始まる。

 一方、王子タミーノ(Tamino)は大蛇でなく列車に追いかけられる。夜の女王の娘パミーナ(Pamina)は、乗車切符を持っていなかったため拘束される。パミーナの救出に向かうタミーナのお供は、野球帽を被り、スケートボードに乗っている。

 おのを握り恐ろしい雰囲気の夜の王女は、最後には高速列車に引かれてしまう。王女の従者は清掃作業員の女性で、革の服をまといムチを手にした「SMの女王」に変わる。

 せりふは現代の言葉に直され、上演時間も通常の3.5時間から2時間に短縮された。せりふを簡易にしたことについて、Hagel氏からのコメントはない。

 Hagel氏は、これまでもオペラで新たな試みを行ってきた。1997年に発電所で『ドン・ジョバンニ(Don Giovanni)』を演出したことで名前を知られるようになり、1998年にはサーカスのテントで『魔笛』を上演した。

 今回の『魔笛』の上演は、独身で恋人もいない人たちが電車で見かけた気になる人と知り合いになるという広告にヒントを得たと、Hagel氏は語る。

■オペラの影の主役は地下鉄の駅?

 建築士Axel Schultes氏が設計した連邦議会駅は、まもなく完成。ブランデンブルク門(Brandenburg Gate)と新しいベルリン中央(Berlin Hauptbahnhof)駅を結ぶ新線の駅として2009年に開業する。ベルリン交通局(BVG)によると、このオペラの影の主役は連邦議会駅だという。

 出演者は、ゴミ箱、路線、構内通話装置など様々なものを小道具として使い、構内は最新の照明設備で照らされている。

 地元紙Tagesspiegelはこの駅を、オペラが上演されなくても印象的な光景を見せる「地下の大聖堂」と評している。

 来場者は駅の周辺に設けられた高い位置の座席から、オペラを間近で見ることができ、まるで自分も参加しているような気分になる。

 1989年にベルリンの壁が崩壊し東西ドイツが統一されて以来、市の再建計画の建設物が芸術の舞台として使用されたのは今回が初めてではない。1996年には、ダニエル・バレンボイム(Daniel Barenboim)指揮のオーケストラがポツダム広場(Potsdamer Platz)で演奏する音に合わせてクレーンが動くという試みも行われている。

 連邦議会駅は、これまでも様々なイベントの会場になってきた。ベルリン交通局の広報担当Klaus Wazlak氏によれば、ゴーカート大会、ロビー・ウィリアムス(Robbie Williams)主催のパーティーや、アンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相をテーマにした現代オペラ『Angie』が上演されているという。

『魔笛』は5月25日まで上演される。(c)AFP/Simon Sturdee