【4月28日 AFP】第2次世界大戦中、独ナチス(Nazis)によるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)計画の一環として、ポーランド・ワルシャワ(Warsaw)のユダヤ人居住区(ゲットー)から略奪された17世紀の絵画が、元の持ち主の遺族と匿名の売り主により25日、オークションに出品された。

 作品は「A Boy, in Profile, Singing, in a Feigned Oval(偽りの楕円の中の歌う少年の横顔)」と題され、17世紀のオランダ人画家Pieter de Grebberによる油絵。英ロンドン(London)のオークションハウス「クリスティーズ(Christie's )」で25日に競売にかけられた。

■戦後、ナチスの略奪リストに挙がる

 戦時下に略奪された芸術作品の回収と、正当な所有者への返還事業に携わっているポーランド外務省関係者によれば、クリスティーズの協力により、作品をオークションに出品することで売り主と、米国フィラデルフィア(Philadelphia)在住の遺族が合意したという。

 作品の元の所有者であるAbe Gutnajerさんは、戦前のポーランドで有名な美術品収集家・ディーラーだった。1940年、45万人のユダヤ系ポーランド人とともに、ナチスによってワルシャワのゲットーに収容された。最近のポーランド国内の報道によれば、Gutnajerさんの財産はそこで、バルト海沿岸ラトビア出身のナチス協力者を含むナチス部隊によって略奪されたようだ。

 ナチス・ドイツは1939年のポーランド侵攻後、ユダヤ人を隔離し、せん滅する「ユダヤ人問題の最終的解決」、いわゆるホロコーストを容易とするため、当時ヨーロッパで最もユダヤ人人口が多かった同国内の各地にゲットーを設けた。ホロコーストの犠牲となった600万人のユダヤ人の半数が、ポーランド出身だった。

 ワルシャワのゲットーでは約10万人のユダヤ人が飢えや病気、そして処刑により亡くなった。ゲットーで生き延びた人々も1942年以降、ポーランド北東部にナチスが作ったトレブリンカ(Treblinka)強制収容所に一斉送還された。

 Gutnajerさんは1942年、ゲットー内で殺害された。
 
 第2次世界大戦後、ポーランド政府はナチス占領下で略奪された美術品の公式リストを作成。Gutnajerさんの所有していた作品も名前が挙がっていた。

■ラトビア人からの出品で存在が明るみに

「選挙新聞(ガゼタ・ヴィボルチャ、Gazeta Wyborcza)」によれば、Gutnajerさんの絵は2006年、さるラトビア人がクリスティーズでオークションに出品しようとし、その所在が明らかになった。このラトビア人は氏名などが公表されておらず、ワルシャワから作品を実際に略奪した人物と直接的なかかわりがあるのかどうかも定かではない。

 作品は、クリスティーズがほかのオークションハウスや保険グループらと協力し、紛失・盗難美術品回収のために設立した「アート・ロス・レジスター(Art Loss Register)」が鑑定。ラトビア人の売り主とGutnajerさん遺族との間の交渉も、クリスティーズとともにアート・ロス・レジスターが仲介した。

 選挙新聞の報道によると、オークションの売り上げは、売り主と遺族で折半される。クリスティーズはオンライン・カタログで作品に対し、2-3万ポンド(約410-520万円)の開始価格をつけた。(c)AFP