【12月3日 AFP】テロ攻撃を防ぐため、イラクの首都バグダッド(Baghdad)を取り囲む形で果てしなく続くコンクリートのブロックが、地元アーティストのキャンバスになっている。そこに描かれているのは数千年の歴史をさかのぼる豊かな古代文明や、かつての日常生活の光景など、イラク本来の美しさだ。

 壁は1区画が幅9メートル、高さ2メートル。ブロックと有刺鉄線で広大な壁を張り巡らし、今も日常的にテロ事件が起こるバグダッドと外部を隔てている。

 街の美化を目指す自治体の援助を受けて、地元アーティストたちがこの壁をキャンバスとして使い始め、暴力に引き裂かれ、がれきの山と化したこの街に彩りを添えている。

 アーティストのアハメド(Ahmed)さん(45)は、チグリス川(Tigris River)に面したバグダッド行政区域庁舎近くにあるコンクリートの壁に、1920年代の光景を描いている。バグダッドの西門から荷車を引いて市内に入る農民たちの姿は、今では見られなくなった光景だ。

「イラクの画家はほとんどが避難してしまった。子どもたちは彩りのない中で育っていく。その生活に芸術を取り入れて、暴力以外のことも知ってもらうのが僕たちの務めだ」とアハメドさん。自治体からは、日常生活の光景を描いてほしいと頼まれたという。

 「お金を芸術にではなく電気の復旧に充てるべきだ」との声も一部には聞かれるが、住民にはおおむね歓迎されているという。

■イラク訪問者を壁画が出迎え

 圧巻は、バグダッド国際空港から市内へ向かう道路沿いにある作品だ。ここでは数十人の画家たちが、考古学的価値にあふれたこの国の全歴史を描いている。

 まず目を引くのは、バビロニア(Babylonian)王ハンムラビ(Hammurabi)と金や宝石をまとった王妃が、古代都市遺跡を背景に、高いヤシの木の横に立つ姿を描いた巨大な絵画だ。

 この場所の4キロにおよぶ壁画作成は、空港関連の民間企業がスポンサーとなって絵の具などの資材を提供、各アーティストに20ドルの日当を払っている。多くはバグダッドの美術大学に通う学生で、イラクの歴史を描いた大型本を手に、作品に取り組んでいる。

 監督役のNajji Hussein教授(60)は「学生にとってはいい練習になる。この国にとっては自分たちの歴史と文明を知る窓だ」と話す。

 しかし、芸術としては素晴らしいかもしれないが、「壁の上の有刺鉄線を見ると、ひどく気持ちがかき乱される」とHussein教授。バグダッドが平和を取り戻したら、壁はすぐに取り壊されるのが願いだという。(c)AFP/Michel Moutot