【8月19日 AFP】ヒマラヤ高地にあるインド仏教の拠点ラダック(Ladakh)の中心都市レー(Leh)の旧市街地には、王宮や僧院の遺跡と並んで、伝統的な日干しれんが造りの家が、まるで山から生え出てきたかのように密集し存在している。

 伝統様式の3階建ての住居は寒冷で乾燥した気候にぴったりで、厚い壁は暖気を逃さず、背の高い多数の窓からは太陽の光がたっぷり入る。見た目も美しく、木彫りの窓枠がついていて、屋根のテラスにつながる狭い階段を上がって屋上テラスに出れば、眼下には谷の見晴らしが広がる。

 中世から続くこの住居群は、現存する最も典型的なチベット様式の都市建築物として知られるが、現在は荒廃が進み、存続すら危ぶまれている。

 ニューヨークの非営利団体「世界記念物基金(The World Monuments FundWMF)」は6月、レーの旧市街地を、消滅の危機に瀕する世界の名所100か所の1つに指定し、気候変動により本来乾燥しているはずの地域で降雨が増えていることなどを懸念要因に挙げた。実際、昨年は異常豪雨に見舞われ、建物の平らな屋根の幾つかが陥没した。しかし荒廃の最大の原因は、何十年にもわたりインド政府から放置されてきた事実にある。

 かつて農業が主要な産業だった頃、住民は谷間の土地を耕し、丘陵地に伝統的な住居を構えていた。しかしこの10年来の観光ブームで、レーを訪れる観光客は昨年だけで4万人を越えた。観光収入により街の近代的なエリアに移り住む住民が増加する一方で、農地のほとんどにはホテルや大きな家が建ち、傾斜地に密集していた伝統様式の住居の多くは空き家となっていく。 

 今もここに住み続ける住民の多くは貧しい労働者だ。住居の修復には1軒あたり1250ドル(約14万円)かかるため、非政府組織のチベット・ヘリテッジ・ファンド(Tibet Heritage FundTHF)が資金を提供し、修復の支援にあたっている。

 現在は中国に組み込まれているチベットと文化的類似点が多いラダック地方だが、インド政府から無視された状態が長年に渡り続いている。

 観光客の大半は、街の新興エリアの安宿に泊まり、そこの食堂で食事をとる。一方、旧市街地の路地は未舗装でめったに掃除されることもなく、観光客が寺院や僧院にたどり着くことも難しくなっている。

 地元の自治協議会の関係者は、インド政府当局が旧市街地保存のための計画を立案するべきだと主張するが、資金不足は否めない

 世界記念物基金は、少なくともインド政府が伝統様式の建築物の維持管理と、新規建築の規制と監視体制を強めることはできるはずだと指摘している。(c)AFP/Tripti Lahiri