【ロンドン/英国 18日 AFP】中国人作家郭小櫓(Guo Xiaolu)氏が初めて英語で著した小説が、英国の文学賞「オレンジ賞(Orange Broadband Prize for Fiction)」の最終選考に残った。

 この賞は、英国で1年間に発表された本のうち、女性作家が英語で著したものに対して毎年授与されるもの。受賞者には賞金3万ポンド(約714万円)が贈られる。他にも、インド、ナイジェリア、英国、米国の作家が候補者に挙げられている。

■国際カップルが描く恋の葛藤

 誤りの多い英語で書かれた郭氏の小説「A Concise Chinese-English Dictionary for Lovers(簡明中英情人字典)」の主人公は、お互いの母国語で会話をすることが出来ないカップル。ロンドンに留学した中国人女性が、ある男性と出会い、性と自由に目覚め、自己を発見していく物語だ。しかし、英語を修得したにもかかわらず、主人公の女性は恋人のことを理解できずにいる。

 中国南部の漁村出身の郭氏は、中国で作家として活動する他にも、脚本家、映画監督、映画学校の教師として活躍してきた。

■ヒマラヤ山脈が舞台のヒューマンドラマほか優秀な作品が勢揃い

 インド人作家のキラン・デサイ(Kiran Desai)は、ベストセラー作家アニタ・デサイ(Anita Desai)の娘。作家にとって2作目となる候補作「The Inheritance of Loss」は2006年度ブッカー賞(The Man Booker Prize for Fiction)も受賞。初の両賞同時受賞となる可能性のある同作は、ヒマラヤ山脈のふもとで孤独に暮らす気むずかしい元判事が、両親を亡くした孫娘とおしゃべりな料理人の息子の来訪によって変化していく様子を描いたもの。

「ブリージング・レッスン(Breathing Lessons)」でピュリツァー賞(Pulitzer Prize )を受賞した米国人作家アン・タイラー(Anne Tyler)は、米国のボルティモアに暮らす一家のもとに韓国人の赤ちゃんがやってくる「Digging to America」で候補に挙げられた。

 ナイジェリア人作家Chimamanda Ngozi Adichieは1960年代に起きた「Half of a Yellow Sun」でビアフラ戦争を舞台に、アフリカの民族意識と忠誠心、階級と人種、道義的責任、混乱する愛情などを描き出した。

 英国人作家ジェーン・ハリス(Jane Harris)の候補作「The Observations」はメイドとして採用されたアイルランド人の少女と、謎の死を遂げた元メイドに執着心を持つ女主人の物語を1983年当時のエディンバラ(Edinburgh)を舞台に描いた作品。

 レイチェル・カスク(Rachel Cusk)の「Arlington Park」は、雨が降り注ぐ英国郊外を舞台に、様々な家庭が営む充足した生活とその裏の不安を表現した。

■受賞作品の発表は6月6日

 審査員を務める作家ムリエル・グレイ(Muriel Gray)は、候補作を「信じられないほど素晴らしい。今回候補に挙がった6作品は完成度が高く、読み手の興味を掻き立てる。異なる5つの国から選ばれた今回の候補者は、ベテラン作家からデビュー1作目の新人まで幅広い顔ぶれです」とコメント。

 ブックメーカーのウィリアムヒル(William Hill)によると、優勢なのは11-4のAdichie氏。次いで、デサイ氏が3-1、カスク氏が7-2、ハリス氏が5-1、郭氏とタイラー氏は共に11-2とのこと。

 昨年度の受賞作は、英国人作家ゼイディー・スミス の長篇第3作目となった「On Beauty」。

 今年度の受賞作は6月6日にロンドン市内のロイヤル・フェスティバル・ホール(Royal Festival Hall)にて発表される予定だ。

 写真は2006年10月10日、ブッカー賞授賞式に出席したキラン・デサイ(Kiran Desai)氏。手にしているのが今回オレンジ賞候補に挙げられた「The Inheritance of Loss」。(c)AFP/JOHN D MCHUGH