【8月19日 AFP】アルゼンチンの獣医が、安価でシンプルな牛用の避妊器具を開発した。同器具を使用し、妊娠している牛が食肉処理場に送られるのを防ぐことで、大草原での家畜飼育に大変革がもたらされるかもしれない。

 国立ノースウエスタン・ブエノスアイレス大学(National University of Northwestern Buenos Aires)のエンリケ・チュリン(Enrique Turin)教授(47)は、自身が言うところの世界初の牛用の子宮内避妊器具(IUD)を考案し、製造している。

■避妊で1頭当たりの牛肉生産量5%増加

 雌牛は子宮が空の状態で食肉処理場に到着する必要があるが、「アルゼンチンでは、そうはなっていない」とチュリン教授は指摘する。「繁殖サイクルを終えて食肉処理場に送られた雌牛の中には、その時点ですでに妊娠している雌牛が高い割合で存在する」

 問題は倫理の範囲にとどまらない。雌牛を肥育するために餌として与えられる栄養素を代わりに胎児が摂取してしまうために、牛1頭当たり10キロの食肉が失われる可能性があるからだ。

 牛肉生産世界上位国のアルゼンチンでは、食肉処理される雌牛全体の5%にあたる年間約100万頭が、妊娠した状態で処理場に運ばれてくる。チュリン教授によると、IUDを使用することで1頭当たりの牛肉生産量が5%増加、関連する牛の頭数を考慮すると、「顕著な数字」だという。

■250万個を輸出する大成功

 チュリン教授は20年前に、手作りの牛用IUDを用いた実験を開始した。現在では、首都ブエノスアイレス(Buenos Aires)の北245キロの、国内の畜産と農業の中核地域に位置するペルガミノ(Pergamino)にある自宅の隣に小さな工場を持ち、IUDを製造している。

 このIUDは、すでに子牛を5頭から7頭産んだ経験があり、食肉処理のために肥育中の雌牛用に設計されており、価格は1個3ドル(約300円)。同国と欧州連合(European UnionEU)で特許を取得している。

 安価でシンプルなIUDは成功を収めており、これまでに延べ約250万個が、世界の牛肉生産大国のブラジルやスペインなどに輸出されている。

 政府統計によると、アルゼンチンには現在、牧畜牛が5800万頭存在する。このIUDが広く使用されると、雄牛と雌牛が入り混じった状態で放し飼いになっている大草原パンパでの牧畜牛飼育に大改革をもたらすだろう。(c)AFP/Josefa SUAREZ