【7月25日 AFP】ドイツ東部ザクセン・アンハルト(Saxony-Anhalt)州デレンブルク(Derenburg)で農業を営むクラウス・ミュンホフ(Klaus Muenchhoff)さん(60)は黄金色に輝く畑に入れるトラクターの準備に余念がない。

 ミュンホフさんの堂々たるトラクターたちはただの鉄の怪物ではなく、数センチの精度で作業できる衛星誘導式の無人トラクターだ。疲れを知らず、視界不良も関係ない。効率良く作業することで走行距離を短縮して燃料費を抑え、さらには収穫量も向上する。

 ミュンホフさんは10年前、現在注目を集めている農業のハイテク化の流れを受けて自身の農場を刷新した。現在は1000ヘクタールを超える土地で小麦やナタネを栽培している。がっしりとした体格で灰色のあごひげを生やし、薄い眼鏡をかけているミュンホフさんは「今、私の仕事はマネージメントだ」と言う。

 ミュンホフ家は200年近く昔からこの土地を耕してきた。しかし、畑全体を画一的に管理するのではなく、米国で1980年代に登場した最先端の技術を使って小区画をそれぞれ別々に管理する「精密農業(precision agriculture)」に転向して以来、ミュンホフさんの仕事は様変わりしてしまった。GPS誘導トラクターに加え、土壌の組成を評価して区画ごとの栄養状態を計測する光学センサーを導入したことで肥料の使用量も減った。

■経済的に有利な精密農業

 これらには環境面の利点もあるが、主な狙いは経済面にある。

 この6年間で、ミュンホフさんはリンとカリウムの使用を減らすことによって15万ユーロ(約2000万円)近くを節約することができたという。これは商品価格が急激に変動する中では大きな利点だ。「20年前、100ヘクタールの畑では10トンのリンが必要だった。最近では、2トンから5トンで済む」とミュンホフさんは語る。

 今や必要不可欠になった図表やデジタルマップ、衛星写真をパソコンで駆使するミュンホフさんは、今なお精密農業の分野で先駆的な存在だ。ミュンホフさんによれば、ドイツにある28万の農場のうち光学センサーを導入しているのは800から1000にすぎない。しかし精密農業には豊かな未来が待っているかもしれない。

 農業機械大手ジョンディア(John Deere)の広報担当、オリバー・ノイマン(Oliver Neumann)さんは「精密農業は生産性を極めて大幅に向上させ、環境保護のための規制がますます厳しくなるこの時代に、資源使用量の削減を可能にする」と語る。

■収益性向上、食糧不足克服、関連市場創出──広がる期待

 問題は、50万ユーロ(約6600万円)もするハイテクコンバイン収穫機があるなど、機械がいまだに安くなっていないことだ。しかし、利用者が増えれば、小規模な農家でも導入可能な価格になっていくだろうとノイマンさんは言う。

 ミュンホフさんも「小規模農家でも既にこれらの技術を使っているところはある。彼らは近所の農家と手を組み、大規模農場と同程度の収益性を生み出すこともできる」と語る。

 こうした技術革新は、将来世界中でその深刻化が予測される食糧不足を克服する希望を与えてくれる。また熟練労働者に対する需要の増加といった新しい機会を農業にもたらすほか、ソフトウェアやスマートフォン、無人機といったビジネスに新しい市場を生み出す。

 6人の従業員を抱えるミュンホフさんに、「いずれ機械が農場を乗っ取る日がくるのか?」と問うと、「そういったことが起こるとは思わない。機械は仕事を助けてくれる。それだけだ。彼らは決断しない。私が決断する」という答えが返ってきた。(c)AFP/Benoit TOUSSAINT