【7月3日 AFP】スペイン東部バレンシア(Valenca)にある研究所、プリンス・フェリペ・リサーチ・センター(Prince Felipe Research Centre)で、若い研究者たちが青い手袋とゴーグルを身に付け、化学薬品を混ぜている。

 この研究所では、がんやアルツハイマーの薬剤の改善に取り組んでいる。設備の充実した研究所だが、同研究所は他の研究所と同様、金融・経済危機の影響で出資が大幅に削減された結果、命を救う可能性のある研究が滞り、国内トップクラスの有能な科学者たちが流出する恐れがあると警告している。

 マリア・ヘスス・ビンセント(Maria Jesus Vicent)さん率いるチームは、生死を左右するような重要薬剤の効果を高める化合物を開発する「ナノ医療」が専門だ。

 ビンセントさんは「われわれはこの分野で国内トップレベル。前立腺がんの研究でかなりの成果を上げている。動物実験で次の段階に進みたい」と話す。だが、「十分な資金がない上、われわれの研究は化学研究よりもはるかにお金がかかるため、この研究のための出資を待っている」という。

■激減する研究予算

 研究所は、スペイン経済が不況に陥る前の好景気真っただ中にあった2005年、6000万ユーロ(約78億円)を投じて設立された。

 しかし政府が財政再建に取り組む中、約1000万ユーロ(約13億円)だった国からの補助金は11年には500万ユーロ(約6億5000万円)以下に削減され、ビンセントさんは研究継続のために欧州連合(EU)の基金に頼らざるをえなかった。

 研究所の28の研究室は半分が閉鎖され、スタッフ244人のうち114人が解雇された。ビンセントさんは「あれほど有能な人たちを解雇しなければならなかったのは悲惨だった」と語った。研究所のハイテク設備は現在使われておらず、機械化された2つの手術室は、今では研修室として使用されている。

 スペインの科学団体COSCEが最近発表した報告書によると、同国の科学研究分野への公共投資は、危機が始まった翌年の09年から13年の間に90億ユーロ(約1兆2000億円)から50億ユーロ(約6500億円)へと約45%も縮小した。

■頭脳流出も慢性化

 バルセロナ(Barcelona)の研究機関で後天性免疫不全症候群(AIDS、エイズ)ワクチンの開発に5年間携わっているある研究者は、「スペイン(の医療)は過去10~15年に努力を重ね、それが実を結んだ。研究では国際的に極めて良い位置に付けていた。歳出削減で、20年かかって得た成果が失われる恐れがある。そうなれば、遅れを取り戻すのにさらに20年は必要になるかもしれない」と話した。

 バルセロナの有名なバルデブロン研究所(Vall d'Hebron Research Institute)も外国や民間からの研究資金が4分の3に減った。同研究所のジョアン・コメージャ(Joan Comella)ディレクターは、補助金不足のせいで科学者がスペイン国外で仕事に就く「頭脳流出」が慢性化していると言う。「優秀な科学者が国を出れば、その人物の研究チームと知識、そして資金を引きつける能力も国からなくなってしまう」

 資金不足は医学研究にとどまらず科学の全分野に広がっている。COSCEによれば、スペインの公的機関で働く科学者は2010年の13万人弱から今年は約11万7000人に減った。(c)AFP/Anna CUENCA