【6月10日 AFP】科学者らは7日、連結部の摩耗や老朽化が進む米航空宇宙局(NASA)の火星無人探査車オポチュニティー(Opportunity)が、火星への打ち上げ後10年近くを経過して成し遂げた、初期火星の水に関する新発見に喝采を送った。

■調査対象として最も古い岩

 太陽電池式の無人探査車オポチュニティーは、「エスペランス6(Esperance 6)」として知られる、おそらくこれまで解析した中で最も年代が古いと思われる岩の分析を完了した。この岩には、生命を支える可能性を持った水がかつて大量に流れた証拠となる粘土鉱物が含まれていた。

 研究責任者の米コーネル大学(Cornell University)のスティーブ・スクワイヤーズ(Steve Squyres)氏は「水と岩との相互作用で岩の化学的性質が変化した。鉱物学的性質を劇的に変化させたことを示す強力な証拠だ」と話す。

 同氏はこの調査を、10年に及ぶミッションの中で「最も重要なもののいくつか」と表現した。この調査が、火星の水についてのこれまでの大半の発見とは極めて異なる化学的性質を示しているためだ。

 科学者らは、かつて、これらの岩にある割れ目を大量の水が流れ、異例の高密度で粘土が後に残されたと考えている。

 スクワイヤーズ氏によると、分析は、飲用に適した可能性の高い水の痕跡を示している。この水は、火星の最初の数十億年に存在した。当時は粘土岩がより中性に近い水素イオン指数(pH)環境の中で形成されていたとされ、その後、環境が厳しくなったために水はより酸性になっという。

 地球にいる科学者らは、オポチュニティーの岩石研磨装置、アルファ粒子・X線スペクトロメータ、顕微鏡画像記録装置によって詳細な情報が得られるので、火星の岩を地球に持ち帰らなくても、火星の歴史について知ることができる。

■老朽化の進む機器

 2003年に打ち上げられたオポチュニティーと、同型の探査車スピリット(Spirit)の2機は、2004年1月に火星に着陸した。当初の探査予定期間を3か月に設定されていた2機は、古代の火星に湿潤な環境が存在した証拠を発見した。

 スクワイヤーズ氏は記者団に対し「これまでオポチュニティーが発見した証拠の大半は硫酸だった」として、エスペランス岩における発見との重要な違いを大まかに説明しながら、「これ(エスペランス岩の痕跡)は飲用可能な水だ」と述べた。

 エスペランスのような最も年代が古い岩のpH値は中性であり、これは、初期の火星の水が「前生物的化学のような、生命の誕生をもたらしうる化学反応にとって、化学的性質、pH値、酸性度などの点で、おそらくはるかに好ましい」ものだったことを示唆している。

 スクワイヤーズ氏は、6輪駆動のオポチュニティー探査車は「肩の調子が悪い」と述べ、またエスペランスの分析には7回の試行を要したことを明らかにした。試行は、探査車が砂塵(さじん)嵐、でこぼこの地形、火星が太陽の陰に隠れて地球との連絡が絶たれる期間などに耐える中、数週間にわたったという。

 オポチュニティーは現在、1日に約50メートルというゆっくりとした速度で移動している。目的地は、1.5キロ先の「ソランダー・ポイント(Solander Point)」として知られる地域だ。ここには調査対象となる地層が、エスペランスが発見された地域より10倍ほど多く存在する。8月1日までに到着する見込みだ。

 NASAジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)のオポチュニティーのプロジェクト責任者、ジョン・カラス(John Callas)氏は、「オポチュニティーの調子は、われわれが前回報告して以来、基本的に変わっていない。ここしばらく、連結部のメカニズムにいくつかの問題を抱えているが、駆動系は順調に作動している」と語る。

 活動開始以来、オポチュニティーが走行した火星表面の距離は36キロメートルに及ぶ。科学者らによると、これは自動車がオイル交換なしで約320万キロを走行したことに相当するという。

 老朽化による主な懸念事項は、カラス氏の言う「フラッシュメモリーの健忘症」で、特定のフラッシュメモリー・セルの過剰使用による消耗だ。

 だがカラス氏は、火星の過酷な環境と厳しい温度変化がより大きな問題だと述べる。「オポチュニティーは今すぐにも、壊滅的な故障を起こすかもしれない。だから1日1日が授かり物だ」と、カラス氏は語った。(c)AFP