【6月3日 AFP】欧州宇宙機関(European Space AgencyESA)の火星探査機マーズ・エクスプレス(Mars Express)は、比較的少ない費用で製造され、たった5年間で完成し、設計寿命は火星の1年に相当するわずか687日間だった。それが10年後、火星軌道の周回数が1万2000回を超えた今も、まだまだ元気に活躍している。

 マーズ・エクスプレスは、米航空宇宙局(NASA)の大成功を収めている大規模な探査機、着陸機と共に、地球の姉妹惑星の火星を取り巻く秘密のベールをめくるのを助けてきた。地下水の存在や激しい火山活動の痕跡を指摘し、奇妙なあばたのある火星の衛星に解明の光を当てた。

 マーズ・エクスプレスに搭載された7種類の観測機器は、水が存在しないと形成されない鉱物を検出したり、水の氷が地下で形成されているのを発見したりした。また、地表のスキャンにより、火星上で火山活動が最近まで続いていた可能性が示唆された。火星大気の化学分析では、メタンガスが存在する可能性を示した。地球では、メタンガスは活発な火山活動と生物学的生命に起因すると考えられている。

 マーズ・エクスプレスは欧州初の惑星探査ミッションとして、地球と火星が17年に1度の「大接近」に近づいていた2003年6月2日に、ロシアのソユーズ(Soyuz)ロケットでバイコヌール宇宙基地(Baikonur Cosmodrome)から打ち上げられた。ミッションの継続予定は当初、火星の1年に相当する期間だったが、すでに4回延長されており、最新の終了期限は2014年末となっている。

■「大量生産」で低コスト実現

 合理化した低コストのプロジェクトとして考案されたマーズ・エクスプレスは、ESAにとっては1つの賭けだった。

 ESAは、惑星探査には個別に設計・製造した探査機が必要とする従来の考えを捨てた。こうした探査機は、製造期間に10年を要し、費用も必然的に1機当たり10億ドル(約1000億円)に達する。

 経費を削減するため、ESAの受託各社が原則的に講じた手段は「大量生産」だった。マーズ・エクスプレスの箱型の基本設計は、2005年に打ち上げられて現在も活動中の同型の金星探査機ビーナス・エクスプレス(Venus Express)にも使用され、来年に大活躍が期待されている彗星(すいせい)探査機「ロゼッタ(Rosetta)」と基盤が同じだ。

 これまで、ESAの火星探査にかかった費用は3億ユーロ(約390億円)で、これほどの驚異的な成果を上げたミッションにしてはわずかな額だ。

 そして、これまでに1人の命も危険にさらされたことはない。

 先週、現在の化学ロケットをさらに高速な輸送手段に切り替えなければ、火星への有人飛行で宇宙飛行士の健康が脅かされる恐れがある証拠が報告された。

 この報告は、米航空宇宙局(NASA)の無人火星探査機「マーズ・サイエンス・ラボラトリー(Mars Science LaboratoryMSL)」の機内で測定された放射線量を基にしたもので、253日間の飛行中に高レベルの放射線を浴びることを明らかにした。この放射線は、太陽から噴出する粒子や太陽系外から飛来する粒子で、DNAを貫通してがんの発生リスクを高める恐れがある。

 サウスウェスト研究所(Southwest Research Institute)宇宙科学工学部門の主任科学者、ケーリー・ザイトリン(Cary Zeitlin)氏によると、火星への旅で受ける蓄積線量は「全身CTスキャンを5~6日に1回受け続ける程度」になるという。「われわれが測定したレベルの放射線被ばくは、NASAなどの宇宙機関が規定する職務上の上限値ぎりぎりで、それを超える可能性もある」(c)AFP/Richard INGHAM