【5月27日 AFP】スイス連邦工科大学ローザンヌ校(Ecole Polytechnique Federale de LausanneEPFL)の研究チームは、長寿遺伝子の影響に注目し、基本的な抗生物質の投与で線虫の寿命を60%延ばすことに成功したとする研究結果を22日の英科学誌ネイチャー(Nature)で発表した。研究チームは、この研究で加齢の謎の解明に一歩近づいたとしている。

 同じ生物種の中で一部の個体が他の個体よりも長生きする理由を解明することを目的としたこの研究。研究を主導したEPFLのヨハン・アウウェルクス(Johan Auwerx)氏によると、線虫たちは単により長く生きただけではなく、同時により健康だったことにも言及している。

 研究チームはまず、細胞の「エネルギー工場」ともいえるミトコンドリアをマウス研究を通じて調べ、そこで遺伝子発現の速度によって寿命に影響を与える3つの遺伝子から成るグループを発見した。これら遺伝子の発現速度が50%遅い(発現率が50%少ない)マウスは他のマウスより250日間ほど長く生きた。これは通常の寿命の約30%にあたる。

 チームは次に実験対象を線虫に切り替えた。マウス実験で得られた結果を踏まえてタンパク質合成を操作し、線虫の寿命を最大60%延ばすことに成功したという。

 アウウェルクス氏は、実験では、バクテリアが祖先とされるミトコンドリアに抗生物質を用いたと説明した。抗生物質はバクテリアに作用するためだ。抗生物質の投与により遺伝作用の模倣が起きて、線虫は19~30日間ほど長く生きたという。これは約60%の寿命延長にあたる。

 栄養素をさまざまなタンパク質に変換しているミトコンドリアは、過去の複数の研究で加齢に関わりが深いことが示されている。今回オランダ、米国のチームと共同研究を行ったEPFLのチームは、この過程に関わる遺伝子の特定とさまざまなタンパク質が寿命に与える影響の解明を試み、いわゆるミトコンドリアリボソームタンパク質(MRP)が及ぼす影響と寿命とが反比例していることを突き止めた。

 また個体の初期発生段階の重要な時期におけるMRPの不足が、ミトコンドリアにとってストレスをもたらすことも発見した。これは短期的には繁殖力の低下といった悪影響をもたらすが、長期的にはより強い筋肉構造や長寿といった好影響をもたらすとみられている。

 このたびの研究結果を踏まえ、チームは、抗生物質の使用でほ乳類の加齢を抑制できるかどうかの確証を得るためには、さらなる研究が必要と強調している。(c)AFPble helix. AFP PHOTO