【4月23日 AFP】シベリアの永久凍土を踏み鳴らすマンモス、ニュージーランドの森を歩き回る巨鳥モア、豪南部タスマニア(Tasmania)島で闇夜に獲物を求めてうろつくフクロオオカミ(タスマニアタイガー)── スティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)監督の映画『ジュラシック・パーク(Jurassic Park)』シリーズ新作に出てくる古代の一シーンではない。遺伝子工学の研究者たちによれば、我々が生きている間にも実現可能だという場面だ。数千年も前に絶滅した生物でさえ再生できるという。

 英国の故フランシス・クリック(Francis Crick)博士と米国のジェームズ・ワトソン(James Watson)博士がDNAの二重らせん構造に関する論文を発表してから25日で60年になる。

■マンモスならば20~30年で可能?

 今日、この画期的な知見を応用すれば、数年内にも絶滅した生物の再生は可能だと考える科学者たちがいる。保存されている絶滅生物の組織標本から取り出した遺伝物質と、初期化した卵子を近縁種に着床させるクローン技術によって可能だろうという。

 絶滅生物の再生に取り組むカナダ・マクマスター大学(McMaster University)の進化遺伝学者、ヘンドリック・ポイナー(Hendrik Poinar)氏はAFPの取材に対し「カモノハシガエルなら1~2年、マンモスの場合は20~30年、またはそれよりも早く再生できるだろう」と語った。

 2000年に絶滅したスペインアイベックスというヤギの亜種「ブカルド」(別名ピレネーアイベックス、Pyrenean Ibex)の最後の1匹だった雌から採取したDNAを用いて、2009年にはクローン再生に成功したという発表があった。家畜ヤギから生まれたこのクローンは、絶滅種では初のクローン生物だったが、肺機能の異常で誕生から10分と経たないうちに死んでしまった。

 一方、日本の研究チームも2011年、シベリア凍土から冷凍状態で発見されたマンモスの死骸から採取したDNAを用い、6年以内にもマンモスを復活させると発表した。英国ではオックスフォード大学(University of Oxford)のチームが、インド洋(Indian Ocean)のモーリシャス(Mauritius)島で1680年までに絶滅した飛べない巨鳥ドードーの博物館所蔵標本から遺伝子情報を得た。

■復活させるはよいが…の懸念  

 研究者たちは、DNAさえ残っていれば、ほとんどの生物が再生可能だと考えている。ただし、それは20万年程度前までで、『ジュラシック・パーク』のような恐竜の復活は実現しなさそうだ。

「絶滅種の再生を阻む法律や倫理的な問題が存在していなければ、シベリア一帯は再びマンモスやホラアナライオンだらけになるだろう」とポイナル氏は言う。「問題は、本当に絶滅種を再生させるべきなのかということだ」

 英ロンドン大学経済政治学院(London School of EconomicsLSE)の社会学者キャリー・フリーズ(Carrie Friese)氏も、絶滅種の再生を急ぐあまり、倫理が脇に追いやられていると懸念する。「再生した生物をどう扱うかではなく、絶滅種の再生は可能かという点に関心が集中しすぎていることが心配だ」。多くの生き物が絶滅していった原因は、まさに自然の生息環境が破壊されたためにほかならないとフリーズ氏は指摘する。

 クローン技術で再生された絶滅生物の子孫は、野生に適応するための広範な遺伝子プールを持っていない。このため博物館行きとなって一生を終えるだけだろう。飛び方や餌の取り方を教えてくれる頼りの親もいない。「生き物はゲノムを超えた存在だ。ドードーだって、学ばずしてドードーになることはできない」(フリーズ氏)

■求められる透明な議論

 一方、米スタンフォード大学(Stanford University)の生命倫理学者ハンク・グリーリー(Hank Greely)氏は、絶滅種の再生に積極的な一人だ。その理由は「ただ単に素晴らしいことだからだ」という。「実現すれば本当にすごい」と語るグリーリー氏は同時に、不適切で行き過ぎた苦悩が科学的探究の分野に及んでいると不満をもらした。

 絶滅種の再生によって利点がもたらされる可能性もある。「生きた」絶滅種を通じて、絶滅生物や、環境によって発生する可能性のある亜種に関する知識を直に育むことができるだろう。

 またシベリアに再びマンモスがよみがえれば、不毛の地である凍土が緑豊かな数千年前の姿に戻るはずだと説く人々もいる。

 さらに現代技術によって、絶滅の危機にある生物に遺伝的多様性を取り戻す方法を開発できるかもしれない。

 絶滅種再生に関わる倫理の問題を切り抜ける唯一の道を提供するのは、狭い科学界にとどまらない、尊大さを捨て去った透明な議論だとポイナル氏は訴える。「絶滅した生物をよみがえらせる真の目的や、その正と負の側面の双方について、鋭く、そして真摯な議論こそすべきだ」(c)AFP/Mariette LE ROUX