【4月14日 AFP】米国の科学者チームは、死後の脳を透明にする手法の開発に成功した。これで、脳内の複雑な神経配線を、脳をスライスせずに調査・研究できるようになるという。

 化学工学の粋を集めたこの手法はマウスから取り出した脳で実証試験が行われてきたが、さらなる試験により、ゼブラフィッシュや人間の脳の一部にも有効に機能することが明らかになった。

 10日に英科学誌ネイチャー(Nature)で発表された論文によると、クラリティー(CLARITY)と呼ばれるこの手法は、体から取り出した脳やその他の臓器の「3次元」的な研究に大きな変化をもたらすものだという。

 研究チームを率いた米スタンフォード大学(Stanford University)の生物工学研究者、カール・ダイセロス(Karl Deisseroth)氏は「原型を保ったシステムの広い範囲を分子レベルの分解能で見て、細部の詳細と全体像を同時に調査できるようにするというのは生物学における大きな課題の1つだった」と語る。

■脂質を除去して透明に

 脳は体の中で最も重要な臓器だが、脳の回路がどのように機能するのかについては、いまだ大部分が解明されていない。不透明な脂質によって視界が遮られるため、脳の内部を観察することができない。脂質は細胞膜を形成し、細胞組織を1つにまとめる役割を担っている。

 これまで、脳の奥の構造を調べるには、脳をごく薄くスライスして、スライスごとのスキャン画像を作成してから、コンピューターで画像を再構成するというプロセスが必要だった。

 CLARITYでは、脂質を透明な水性ジェルで置き換えることで、組織の原型を保ったまま、脳内部の微細構造を明らかにすることができる。まず脳内にジェルを注入して細胞組織に浸透させ、組織の構成要素を結び付ける網の目構造を形成する。

 その後、脳の組織を壊さないように電気化学的処理を行って脂質を取り出す。これにより、すべての細胞と神経配線の原型を保ったまま、詳細に調査できるようになる。

■マウス、ゼブラフィッシュに続き人間の脳でも実証

 今回の研究を行ったスタンフォード大学の発表によると、この処理によって「神経細胞、軸索、樹状突起、シナプス、タンパク質、核酸などの重要な構造が全て本来の位置に原型のまま残った3D(3次元)の透明な脳」が得られるという。

 脳にこうした透明化の処理を施せば、光と薬品を使用して、脳の細胞群の間の神経連絡と関係を個別に追跡・調査することが可能になる。蛍光タンパク質を使って、個々の神経線維をそれぞれ異なる色で発色させると、神経細胞をつなぐシナプスなどの超微細構造を電子顕微鏡で調べることができる。

 研究チームはこの手法をマウス、ゼブラフィッシュで実証した後、死亡した人間の脳の切片を使って試した。研究チームは、7歳の自閉症児の前頭葉の個別の神経線維を調べたところ、神経細胞に特異な「はしご状のパターン」があることを発見した。

 米国立精神衛生研究所(US National Institute of Mental Health)のトーマス・インセル(Thomas Insel)所長は、CLARITYによって「脳の生体構造を調査し、それが疾病によってどのように変化するかを解明するための方法が大きく変わることが期待される」と述べ、「われわれの最も重要な3次元器官である脳の詳細な研究を、2次元的な手法でしか行えないなどということはもはやない」と指摘した。(c)AFP