【3月15日 AFP】クジラが大群で浜辺に打ち上げられる集団座礁は、病気になったり方向感覚を失って浅瀬に乗り上げた「家族」を助けるためだという長年の仮説を覆す研究結果が15日、米国遺伝学協会(American Genetic Association)が発行するJournal of Heredity誌に発表された。

 米国やニュージーランド大学の研究者らの国際チームが、オーストラリアとニュージーランドで起きたクジラの集団座礁12例を検証し、490頭のDNAを調べた結果、ほとんどのクジラは「血縁」関係にないことが判明。このため、これまで信じられてきた「親戚間での助け合い仮説」は成り立たなくなった。さらに、多くの場合、座礁した子クジラたちの近くに母親はいなかった。

■「家族」説から「社会問題」説へ

 集団座礁の原因について論文の共同執筆者である米オレゴン州立大学(Oregon State University)のスコット・ベイカー(Scott Baker)氏はラジオ・ニュージーランド(Radio New Zealand)のインタビューで、深海で血縁グループが離れ離れになってしまうことにあるのではないかと述べている。

 ベイカー氏によると、ゴンドウクジラの集団座礁に関する過去の説明には2つの仮説がある。第1の仮説は「環境的な要因や、獲物を追って普段なじみのない浅瀬に迷い込んでしまうといった社会的要因」に原因を求めようとするもので、クジラたちは方向感覚を失い、深さや海底の勾配を誤ってしまうためだとしている。

 もう1つの仮説は、助け合い関係にあるクジラたちが、病気になったクジラと一緒に群れごと浜辺に打ち上げられてしまうというものだ。
 
 今回の研究によって2番目の仮説は怪しくなった。では1番目の仮説だけが論理的に唯一のものかとの問いに対しては、科学者たちは今、また別の見解を持っているとベイカー氏は答えた。この新しい仮説も社会的な関係性を基本とするものではあるが、「集団座礁の前にグループ同士の競争か、何らかの内部崩壊があった」とみる説だ。

 論文は、集団座礁の前に餌や交尾相手をめぐる競争、小グループ同士の争いなどが起きた可能性を示唆し、問題に巻き込まれたクジラが発する「救難信号」が周囲にいる他のクジラたちを混乱させ、その結果、「血縁」の群れがばらばらになってしまい、座礁につながるという説を提示している。(c)AFP