【7月21日 AFP】海洋に鉄の粒子を散布することによって、気候変動の原因となる空中の二酸化炭素(CO2)を海中に吸収・蓄積することができるとする研究論文が、18日の英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された。

 しかし、環境に直接手を加える「ジオエンジニアリング」をめぐっては科学者や環境活動家の間で激しく意見が対立しており、この論文にも異論を唱える声が上がっている。

 鉄散布などの「海洋肥沃化」は科学研究目的のものを除き、国際法により禁じられている。ドイツの研究チームが発表した今回の論文は、海洋肥沃化について行われた過去最大規模の調査によるものだ。

 独ブレーマーハーフェン(Bremerhaven)にあるアルフレッド・ウェゲナー極域海洋研究所(Alfred Wegener Institute for Polar and Marine Research)の研究員が率いるチームは2004年、南極沖の南洋(Southern Ocean)に向かった調査船上から鉄散布実験を行った。

 実験は、直径60キロにわたる巨大な渦を対象に行われた。渦は時計回りにゆっくりと回転しており、実験が外海へ与える影響はほとんどなかったため採用された。

 5週間にわたった実験ではまず、珪藻という植物プランクトンの一種の餌となる市販の硫酸鉄の粒7トンを散布した。すると4週間後には、光合成によりCO2を取り込みながら増殖した珪藻が大量発生した。珪藻はやがて死に絶え、死骸は塊になって深さ1000メートル以上の海底へと沈んだことが、採取されたサンプルにより確認された。

 堆積した死骸は数百年以上にわたり海底に留まるだろうと研究チームは推測しているが、この沈殿物の層に対して横方向の海流がぶつかった場合について、さらなる調査が必要だとも付け加えている。

 だが一部の専門家からは、この実験はあくまで例外的な状況下で行われたもので、環境への影響を完全に考慮したものではないと警告する声も上がっている。

 批判している1人に、英国王立協会(Royal Society)が2009年に発表したジオエンジニアリングに関する著名な報告の作成を率いたジョン・シェパード(John Shepherd)教授がいる。

 シェパード教授たちの報告は、海洋肥沃化で吸収されるCO2の量はそれほど多くないと結論づけており、そればかりか海洋生物圏に悪影響を及ぼす可能性についても言及している。

 シェパード教授はAFPに宛てた電子メールで、今回の研究結果を「興味深く、価値ある貢献」と評価しつつも、「(海洋肥沃化は)まだ十分には理解されていない分野であり、このような技術が環境に与えうる副次的影響については言及していない」と指摘している。(c)AFP/Richard Ingham