スペインの洞窟壁画、ネアンデルタール人が描いた可能性
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【6月15日 AFP】スペイン北部にある洞窟で有史以前に描かれた壁画の年代が、現在確認されている中で最古となる4万年以上前のものだとする研究論文が、14日の米科学誌サイエンス(Science)に掲載された。これは、ネアンデルタール人が壁画を描いていたことを示す初めての証拠となる可能性がある。
調査が行われたのは、スペイン北部の11の洞窟内にある壁画50点。
ネアンデルタール人が洞窟に壁画を描いていたことを示す証拠はこれまで見つかっていないが、死者を埋葬し、骨や貝のペンダントといった原始的な装身具を着用していたことは知られているため、論文の共同執筆者でバルセロナ大学(University of Barcelona)のジョアン・ジルヤオ(Joao Zilhao)研究教授は「ヨーロッパで最初に壁画を描いていたとしても驚くべきことではない」と話している。
壁画には、壁に手を当て塗料を吹き付けて抜いた手形や、こん棒、赤い円形模様などが描かれている。
研究チームによれば、エルカスティーヨ(El Castillo)洞窟にある壁画の中には、4万800年以上前に描かれたヨーロッパ最古の円形の壁画もあるという。
■採用された新たな調査方法
だが約4万1500年前にヨーロッパにたどり着いた現生人類がこの壁画を描いた可能性もまだ残されており、ネアンデルタール人が壁画を描いていたと断定するためには、4万2000年前より以前に描かれた壁画を探す必要がある。ネアンデルタール人はおよそ4万年前に絶滅したとされている。
だがジルヤオ氏は、あくまで「勘」にとどまるとしながらも、壁画がネアンデルタール人によるものだと考えているようだ。
研究チームが採用した年代測定法は、壁画の表面に付着した方解石(カルサイト)に含まれるウランの放射性崩壊を調べるもので、壁画の表面には触れずに行われる。そのため壁画そのものの年代は、表面の方解石よりも数千年ほど古い可能性もある。
ジルヤオ氏は報道陣に対し「今はまだ証明できないが、私の『直感』がそう言っている」と述べ、さらに古い証拠を発見するための調査も進行中だと明かした。
論文の主執筆者、英ブリストル大学(University of Bristol)のアリステア・パイク(Alistair Pike)准教授によれば、この測定法は、現在広く用いられている放射性炭素年代測定法よりも優れている。放射性炭素を用いた方法では、同じ壁画を測定してもその時々で結果が大きく異なることが多いが、パイク氏たちは「ウランの放射性崩壊を用いた全く異なる測定法を採用することで、これらの問題の回避を試みている」という。
壁画の表面には、鍾乳石の形成過程と似た原理で、時と共にごく少量の放射性ウランを含む非常に薄い炭酸カルシウムの膜が付着する。ウランは時間と共にトリウムに変化するため「トリウムの含有量を測定することによって、この膜が形成されてからどれだけの年月が経過したのかを知ることができる」とパイク氏は説明する。
豪メルボルン大学(University of Melbourne)のジョン・ヘルストロム(John Hellstrom)氏はサイエンス誌の同じ号で、パイク氏らの発見が壁画の起源に関する定説を覆し、「このようなアートが現生人類の独占領域ではないのではないかという疑問を投げ掛ける」ものだと評価している。
また古人類学界の権威である米ミシガン大学(University of Michigan)のミルフォード・ウォルポフ(Milford Wolpoff)氏も、この発見はネアンデルタール文化の研究に新たな一面を加えるもので、先行研究で明らかになっている事実と照らし合わせても整合性があると述べている。(c)AFP/Kerry Sheridan
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