【4月18日 AFP】人類は仲間とのチームワークを通じて脳を大きく発達させてきたとするアイルランドと英スコットランドの研究チームによる論文が前週、学術専門誌「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)」で発表された。

 ヒト科の祖先と比べ、なぜ現生人類ホモ・サピエンスの脳は大きくなったのか――この疑問は長らく、科学者らの間で謎のままだったが、論文を発表した研究チームによれば、その理由は社会的交流に隠されていたという。

 生き残るために欠かせないのが他者との協力。しかし、多様で複雑な「社会」に対処していくためには脳を発達させる必要があったとチームはみている。

 研究チームはコンピューターを用い、社会生活における困難な状況に応じて神経回路網を発達させる人間の脳についてのシミュレーション実験を行った。

 用意されたシナリオは2種類。1つは、共謀して犯罪を犯した2人が別々に警察に逮捕され、仲間の共犯者について自白するか否かを迫られるというシナリオ。 

 もう1つは、雪道を運転していて吹き溜まりに突っ込み車内に閉じ込められた2人が、互いに協力して雪から車を掘り出すか、それとも自分は車内にとどまり、相手に雪を掘らせるかというものだ。

 どちらのシナリオでも、利己的な選択をしたほうが自分の得になる。

 だが実験では、脳が発達するほど他者との協力を選択するという結果が導き出された。

 論文の共著者、アイルランドのダブリン大学トリニティカレッジ(Trinity College Dublin)のルーク・マクナリー(Luke McNally)氏はAFPの取材に「グループ内において他人同士が協力することは良くあるが、これには認識力が要求される。誰が自分に対して何をしていて、それにどのように対応すべきか常に頭を働かせておく必要があるからだ」と語った。

 同時にグループ作業では、相互関係を計算する必要もあるとマクナリー氏は指摘する。「もしも共同作業で私がずるをしたら、あなたはその次の時には、『あいつはこないだずるをしたから、もう協力しないぞ』と考えるだろう。つまり、基本的に今後も相手の協力を得たければ、自分も協力せざるを得ないということだ」

 マクナリー氏によれば、チームワークと脳の力は相乗効果で高めあう関係にある。より協力的な社会へ移行するにつれ、複雑多様な社会が脳の発達も促進するからだ。

「一度、知性が高レベルで発達を始めると、協力行為もより高いレベルで進歩する」(マクナリー氏)

(c)AFP/Mariette le Roux