【4月9日 AFP】米国で、キリスト教保守派と科学者たちがまたもや衝突している。今度の争点は、進化論などの科学理論に異議を唱える教育を公立学校で認めるテネシー(Tennessee)州の法案だ。

 問題となっている法案は、気候変動や進化論など一般に認められている科学的なテーマについて、公立学校の教室で教師が異論を唱えることを認める内容。成立すればテネシー州は、聖書における「天地創造説」を多かれ少なかれ支持する法律を持つ9番目の州になる。

 米南東部のテネシー州は超保守派「ティーパーティー(Tea Party、茶会)」の強力な地盤で、州議会は既に同法案を承認しており、共和党のビル・ハスラム(Bill Haslam)州知事の署名を待っている段階だ。

 反対派は同法案を「モンキー法(Monkey Bill)」と呼んで批判している。1925年にテネシー州で高校教師のジョン・スコープス(John Scopes)氏が、「人類はより下等な動物の子孫である」と教えたことが州法に違反しているとして提訴された名高い「スコープス・モンキー裁判(Scopes Monkey Trial)」を引用した名称だ。

 テネシー科学教員連盟(Tennessee Science Teachers Association)と米国自由人権協会(American Civil Liberties UnionACLU)テネシー支部は、法案が成立すれば教育者が生徒に疑似科学的な考えを教えることが法律で保証されてしまうと懸念を表明。ハスラム知事に拒否権発動を求めている。

 ACLUテネシー支部のへディー・ワインバーグ(Hedy Weinberg)代表の説明によると、法案推進者らは「天地創造説をあまり唱えておらず、むしろインテリジェント・デザイン(Intelligent Design)を主張している」という。

 インテリジェント・デザインとは、生命がより高次の知的存在によって設計されたものであることを示す科学的な根拠があると主張する説。「進化論に異論を唱え、インテリジェント・デザインとネオ天地創造説を教室で教えられるようにするというのは、とても絶妙で賢いやり方だ」とワインバーグ氏は指摘する。

 法案には、次のように記されている。「教員には、生徒が授業で学ぶ既存の科学的学説の長所と欠点を客観的に理解し、分析し、批判し、再検討する手助けをすることが認められる」「(同法案が)特定の宗教的学説や非宗教的学説を奨励するものと解釈してはならない」

 米科学アカデミー(National Academy of Sciences)のテネシー州在住の会員は、議員に宛てた書簡で、同法が「誤った教育を行い、全米におけるテネシー州の評判を貶め、科学に基づいて回っているグローバル経済で競争力を失う」恐れがあると批判した。

 だが、ハスラム知事は「恐らく」法案に署名するだろうとの考えを示しており、10日にも法案が成立する可能性が高い。

 同法案のモデルとなった法案を起草した米非営利団体ディスカバリー・インスティテュート(Discovery Institute)は、「進化論など議論の余地のある科学的問題について、科学教師らが客観的かつ十全に議論する学問的自由を守り、良質な科学教育を推進する」ものだとテネシー州の法文を称賛している。(c)AFP/Jean-Louis Santini