【4月3日 AFP】市販の殺虫剤がミツバチやマルハナバチに甚大な被害を与えている可能性があるとの英仏の2チームによる研究結果が29日、米科学誌サイエンス(Science)に掲載された。研究チームは代替策として、ハチたちに害を及ぼさない殺虫剤の研究を呼び掛けている。

 2チームは、1990年代以降に世界各地で農薬として用いられているネオニコチノイド系殺虫剤に着目した。ネオニコチノイドは昆虫の中枢神経に作用する薬剤だが、研究によると蜜や花粉にも付着したネオニコチノイドが、ハチに致命的な害を及ぼす危険があるという。

■マルハナバチは小型化、女王バチも減少

 近年、ハチが大量に死亡する謎の現象、蜂群崩壊症候群が数多く発生しているが、殺虫剤が原因である可能性が指摘されている。

 この仮説を実証するため、英国とフランスの研究チームは、殺虫剤を浴びたハチのグループと、浴びていないハチのグループを比較観察した。

 英国の研究チームは、マルハナバチを対象に研究を実施。自然環境と同様の状態で、マルハナバチをネオニコチノイド系の「イミダクロプリド」とよばれる殺虫剤が噴霧された環境にさらした後、訪花や吸蜜活動が可能な範囲の野原を囲った中にハチを6週間放した。

 その結果、殺虫剤にさらされたハチの集団は、そうでないハチ集団と比較して体が8~12%小さく、女王バチの個体数は85%も少なかった。新しい巣をつくる女王バチの数が少なければ、巣の数が激減しハチのコロニーは冬を乗り切れず大量死につながると研究チームは指摘した。

 論文の共同執筆者、英スターリング大学(University of Stirling)のデーブ・ゴールソン(Dave Goulson)氏は、「ネオニコチノイドは多くの作物や花に授粉するマルハナバチの健康に脅威となっており、使用を迅速に再検討する必要がある」と警告した。

■ミツバチの帰巣能力が低下、コロニー崩壊も

 一方、フランスの研究チームの研究はミツバチを対象とした。チームはミツバチの腹側にマイクロチップを貼り付け、致死量に満たないレベルの殺虫剤「チアメトキサム」が噴霧された環境にさらした。

 その後、ハチを追跡した結果、殺虫剤の影響でハチたちは帰巣能力を阻害され、巣に戻れずに死ぬ確率が2~3倍高まっていた。
 
 その死亡率が典型的なコロニーに及ぼす影響を研究チームが算出したところ、ハチの個体数が急減したコロニーで、個体数が再び増加に転じることは困難なことが分かった。

 殺虫剤メーカーに対しては、殺虫能力がミツバチの致死量を下回るよう規制が設けられている。だが、この規制には殺虫剤がハチの帰巣能力に及ぼす影響や、間接的に死に至らせる影響が考慮されていない可能性がある。

 今回の研究について、論文執筆者のフランス国立農業研究所(National Institute for Agricultural ResearchINRA)のミカエル・アンリ(Mickael Henry)氏は「殺虫剤の許認可手続きにおける重要な問題を提起したものだ」と語る。同氏は「これまでの規制は、殺虫剤メーカー側に農地のハチを殺さないことを求めてきた。だが、農地に噴霧された殺虫剤がハチたちを殺さなくても、その行動に害をもたらす点は無視されている」と指摘した。(c)AFP