【3月16日 AFP】メスに交尾を断られ欲求不満になったオスのハエは、悲しみを紛らわすため酒に逃げる――。米大研究チームが15日、ハエと人間の意外な共通点を明らかにする実験結果を科学誌サイエンス(Science)に発表した。

 カリフォルニア大学サンフランシスコ校(University of California, San FranciscoUCSF)のウルリケ・へーベルライン(Ulrike Heberlein)教授(解剖学・神経学)率いるチームは、オスのショウジョウバエを交尾経験のあるメスおよび未経験のメスと一緒に容器に入れ、行動を観察した。

■「ふられる」と求愛行動やめる

 すると未経験のメスはオスの求愛を受け入れすぐに交尾をしたが、交尾後のメスは一定時間、オスに興味を示さなかった。これは交尾の際にオスが精子と一緒に送り込む性ペプチドが原因だ。一方、交尾を拒絶されたオスは、たとえ未経験のメスと一緒にされても求愛行動をしなくなった。

 そこで、交尾を拒否されたオスをメスと隔離し、15%のアルコールを含む餌と通常の餌の2種類を設置した容器に入れたところ、これらのオスはアルコール入りの餌を浴びるように摂取し始めた。

■カギは「ニューロペプチド」・・・人間の酒びたりも解明できる?

 メスに拒絶されたオスの脳内では、神経伝達物質「ニューロペプチドF」が減少していることが確認された。一方、メスと交尾をして性的に満たされたオスの脳内の「ニューロペプチドF」レベルは高かった。研究チームは、「ニューロペプチドF」の脳内レベルによってアルコールへの衝動が引き起こされていると見ている。

 論文を主執筆した米バージニア(Virginia)州ハワード・ヒューズ医療研究所(Howard Hughes Medical Institute)のGalit Shohat-Ophir氏によると、ニューロペプチドFは「脳内の報酬のレベルを示し、報酬を求める行動へと変換するスイッチの役割をしている」。メスに拒絶されたオスは、減少した「ニューロペプチドF」の代わりに、アルコール摂取によって報酬欲求を満たすのだという。

 この仕組みは、交尾の有無にかかわらず人工的に「ニューロペプチドF」を増減させたハエでも確認できた。

 人間の脳にも類似の「ニューロペプチドY」という神経伝達物質が存在する。このため研究チームでは、人間の脳がアルコール依存や薬物依存に陥るメカニズムを解明するのに今回の発見が役立つのではないかと期待している。UCSFの研究チームによれば、現在「ニューロペプチドY」に不安障害などの気分障害や肥満を緩和する働きがあるかを調べる臨床試験が行われているという。(c)AFP