【2月9日 AFP】ロシアの調査チームの掘削ドリルが南極の氷床下にある前人未踏の原始の湖、ボストーク湖(Lake Vostok)に到達したことについて、科学者たちから懸念の声が上がっている。

 極寒の中での掘削作業で、調査チームは掘削した穴の凍結を防ぐため灯油を用いたが、これが採取するサンプルや、湖そのものを汚染する恐れがあるというのだ。

 英エディンバラ大学( University of Edinburgh)のマーティン・シーガート(Martin Siegert)教授はAFPの電話インタビューに対し、こうした懸念によって露調査チームの「画期的な業績」が損われていると指摘した。「氷底湖に達するまでの2マイル(3.5キロ)を灯油を使って掘削しながら、汚染はないと主張しても、周囲を納得させることは難しい」

■見つかるか、地球外生命の手がかり

 南極の氷床下3768メートルにあるボストーク湖は、これまで100万年近く人の手が入っておらず、原始の環境がそのまま保存されていると期待がかかる。採取したサンプル中に水中微生物の存在が確認されれば、地表が氷に覆われた火星や、土星の衛星エンケラドス(Enceladus)、木星の衛星エウロパ(Europa)にも同様の微生物が存在する可能性が示されるからだ。

 仏原子力庁(Atomic Energy CommissionCEA)の科学者ジャン・ジュゼル(Jean Jouzel)氏によると、かつてロシアとフランスの共同調査チームがボストーク湖までの掘削作業に臨んだことがあった。だが1990年代初頭、湖面まで残り120メートルに達した時点で、湖の汚染を懸念して掘削を中止したという。

 南極で調査活動を行う科学者は、南極観測に関する国際研究連絡機関「南極研究科学委員会(SCAR)」に調査計画の詳細を申告しなければならない。だが、ジュゼル氏によれば、最終的にゴーサインを出すのは各国政府なため、南極調査でライバル関係にある英国とロシアが今回、自国の調査チームに掘削を進める許可を出したのだという。

■別の氷底湖めざし英チームも近く掘削開始

 シーガート教授は近く、南極にある別の氷底湖、エルズワース湖(Lake Ellsworth)の掘削調査を行う計画だ。露チームとは異なり、ドリルの代わりに90度の熱湯で氷を溶かして掘り進む「熱水掘削」という技術を用いるという。

 熱水掘削では、穴が再凍結する前にサンプルを採取する必要があるため、1日ほどで採取を終えねばならないが、汚染は極力抑えられるという。(c)AFP/Richard Ingham and Christine Courcol

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