【10月12日 AFP】人間のように経験を通じて学び、新たな問題を解決できるロボットは、まるで「SF(空想科学)」だ。

 だが、これを「科学的事実」にしようと取り組んでいる日本の研究者がいる。彼らが作っているのは、一度も見たことのないモノを使って、プログラムされたことのない課題を処理するために、自己学習するロボットだ。

 東京工業大学(Tokyo Insitute of Technology)像情報工学研究所の長谷川修(Osamu Hasegawa)准教授は、周囲の環境を眺め、インターネットで調べ物をして、問題を解決するための最善策を「考える」ロボットのシステムを開発した。世界初の取り組みだ。

 既存のロボットの多くは、事前にプログラムされた課題を実行したり処理したりするのが上手だが、人間が暮らす「現実世界」のことはほとんど知らない、と長谷川氏はAFPに語る。同氏のプロジェクトは、ロボットと現実世界との架け橋つくることだという。

 長谷川氏の「自己増殖型ニューラルネットワーク(Self-Organizing Incremental Neural NetworkSOINN)」は、既存の知識を参考にして、課題を解決するための方法を推測するアルゴリズムだ。SOINNは環境を分析して必要なデータを集め、与えられた情報を理路整然とした指示にまとめあげる。

■初めての指示にも「考えて」対応

 仮に、SOINN搭載ロボットに「水をくれ」と言ったとしよう。研究所で行われた実演では、ロボットはその課題を、「コップを持つ」「ボトルを持つ」「ボトルから水をそそぐ」「コップを置く」といった既知のスキルに順序立てる。つまり、水を提供する特別なプログラムがなくても、課題達成のための行動の順番を自分で考えることができるのだ。

 また、能力を上回る課題に直面したときには、助けを求め、そこで得られた情報を将来に生かすために蓄積する。さらに、モノの外見や単語の意味がわからないときには、インターネットを使って自力で検索をする。

 将来的には、紅茶を入れることになった日本のロボットが、英国のロボットに入れ方を聞く、ということもできるようになるはず、と長谷川氏は語った。

■重要な情報を「考えて」選りすぐる

 人間と同じで、SOINNシステムは、他のロボットたちを混乱させるようなどうでもいいノイズ情報を遮断することができる。

 人は電車に乗っているとき、周囲の声を気にせずに仲間と会話をすることができる。また、人は、ある物体に当たっている照明の角度が変わっても、同じ物体であると認識することができる。SOINNシステムは、こういった人間の能力に似たプロセスを行うことができる。

 また同じく、SOINNはネット上の無関係な検索結果も、自力で除外することができる。長谷川氏によると、現在、インターネット上の膨大な情報を有効活用しているのは人間だけだが、このロボットは、インターネットに脳を直接つなぐことができるのだという。

■実用化案はさまざま

 長谷川氏は、将来的にSOINNが実用化されることを期待している。たとえば、交通量の監視や交通事故の報告を分析して、交通渋滞を緩和するために信号機を制御するといった使い道があるかもしれない。

 他にも、日本全国の膨大な地震検知センサーからのデータを統合して、大地震につながるような活動を突き止めることができるようになるかもしれない。

 また家庭では、忙しい主婦たちにとって、考えるロボットはかけがえのないものになるかもしれない。

 ロボットに「しょうゆ持ってきて」と頼めるようになるかもしれない。言われたロボットはインターネットで検索して、「しょうゆ」が何であるかを突き止めて、台所にあるしょうゆを見つけるようになるだろう、と長谷川氏は語る。

■テクノロジーをいかに使うべきか?

 だが、「考えるロボット」の開発にあたっては、慎重になるべき理由がある、と長谷川氏は語る。

 コンピューターにはどんな行動まで許してよいのだろうか?映画『2001年宇宙の旅(2001: A Space Odyssey)』のように、コンピューターがわれわれに反逆する可能性はあるのだろうか?

 包丁は便利な道具である反面、凶器にもなると長谷川氏。長谷川氏の研究チームは、これから本格的な開発を始めるところだが、その前に、倫理的な制約があることについて人びとに知っておいて欲しいと語る。使ってよい場面、いけない場面など、この技術について、多種多様な人びとに議論して欲しいという。

 長谷川氏は、テクノロジーは猛烈な速度で発展しており、すでにこういった技術が存在していることを知ってほしいと話す。まだ生まれたばかりのうちに、いろいろなバックグラウンドを持ったいろいろな分野の人びとに、これをどのように使うべきかについて議論して欲しいのだという。(c)AFP/Hiroshi Hiyama