【9月16日 AFP】冬眠のような深い睡眠を毎日好む小動物たちは、眠りながら寿命を延ばしているらしい―─。露シベリア(Siberia)地方原産のジャンガリアン・ハムスターを使ったオーストリアの研究が、14日の英国王立協会(British Royal Society)の専門誌「バイオロジー・レターズ(Biology Letters)」に発表された。

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 ハムスターの新陳代謝と体温が一時的に下がる「トーパー(torpor、鈍麻状態)」と呼ばれる休眠時に、老化に関連する染色体の自然崩壊も止まり、時に修復さえされていることが分かったという。過去の研究でも冬眠と寿命の因果関係は示唆されていたが、それを説明する生物学的メカニズムについて示されたのは今回が初めて。

 ウィーン(Vienna)にある野生生物生態研究所のクリストファー・トゥルビル(Christopher Turbill)氏の研究チームは、生殖活動をしたことのない雌のハムスター25匹を使い、1日8時間だけ光を照射して冬の環境を疑似的に作り出し、人工的に休眠状態を生じさせた。

 180日間の実験中、ハムスターの半数は摂氏20度、残る半数は摂氏9度の環境に置き、餌は食べ放題にさせた。すると休眠の深さに違いが表れ、休眠の浅いハムスターの体温は29度未満に下がったのに対し、休眠の深いハムスターでは通常体温より10度近く低い25度未満まで下がった。

 研究チームでは、エネルギーを消耗しない昏睡に近い状態になることで、染色体の端に小さな蓋のような形で備わってDNAの鎖を保護しているテロメアという部分に影響が出ると考えた。

 テロメアと、テロメアを制御する酵素テロメラーゼは、老化と寿命の鍵を握る要素だ。細胞分裂のたびにテロメアは少しずつ磨耗し、テロメラーゼがこれを修復する。磨耗の度合いが修復の度合いを上回ると、細胞死が起きる。2009年のノーベル医学生理学賞(Nobel Prize for Medicine)を共同受賞した細胞生物学者のエリザベス・ブラックバーン(Elizabeth Blackburn)氏は、テロメアを「靴ひもの先端」に見立て、先端のビニール製の止め具がなくなると、ひもの糸がばらばらにほどけてしまうと例えた。

 今回の研究では、ジャンガリアンハムスターの毎日数時間ずつの休眠が、テロメアの維持だけでなく、修復もしていることが明らかになった。トゥルビル氏によると「この効果は、主に寒い環境下での深い休眠ほど大きい」という。また、休眠の深いハムスターほどエネルギー消費量が多く、餌をよりたくさん食べていた。トゥルビル氏は実験結果について「恐らく、何らかの形の休眠・冬眠をする動物全般に当てはまるだろう」と話している。

 ただし、人間には当てはまらないそうだ。人間の体温が睡眠中に著しく下がることはなく、基礎代謝率も比較可能なほどは落ちないからだ。「休眠と睡眠は全く異なり、両立しない。これまでの科学では人間を何らかの冬眠状態にする方法を発見するところには迫っていない」(トゥルビル氏)(c)AFP/Marlowe Hood