【9月10日 AFP】2008年に南アフリカで新たに発見された「セディバ猿人(アウストラロピテクス・セディバ、Australopithecus sediba)」の化石を詳しく調査したところ、この猿人がすでに道具を作っていた可能性があることが分かった。人類の祖先の「道具の歴史」は、これまで考えられていたよりも、さらにさかのぼる可能性が出てきた。

 これまではタンザニアで発見された「ホモ・ハビリス(Homo habilis)」の21個の手の骨の化石から、道具を最初に作った人類の祖先は、このホモ・ハビリスだと広く考えられていた。

 しかし今回、地球上に190万年前に生息していたとされるセディバ猿人の部分的な化石を精査したところ、ホモ・ハビリスよりも古い時代に生きていたこの猿人が道具を作っていた可能性があることが判明した。

 南アフリカのウィットウォータースランド大学(University of the Witwatersrand)でプロジェクトを率いる米国人研究者、リー・バーガー(Lee Berger)教授は、AFPに「科学書の書き換えを迫る画期的な研究だ」と語った。

 バーガー氏は当時9歳だった息子とともに、2008年にヨハネスブルク(Johannesburg)北方のマラパ(Malapa)でセディバ猿人の化石を発見した。この場所の周囲は「人類のゆりかご」と呼ばれて世界遺産に登録されている一帯で、バーガー氏の発見以降、乳児や子ども、成人と、年齢層の異なる少なくとも5体の220個の骨が発掘された。

■「プレシジョン・グリップ」ができた可能性

 米科学誌サイエンス(Science)に発表されたセディバ猿人の骨の分析に関する5本の論文によると、セディバ猿人の手の指はしっかりしていて、親指が特に長かった。脳の大きさはサルと同程度だったが、手は道具作りに十分適していた。

 論文の共著者、独マックス・プランク進化人類学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Anthropology)のトレーシー・キビル(Tracy Kivell)氏は、「この親指は現代の人類の手の親指よりも長い」と驚いている。また「手首は道具など大きなものを、よりうまく扱えた」はずで、長く細い指で「しっかりとものをつかむことができただろう」と述べた。

 さらにキビル氏は、これらの形態的特徴を総合して考えると、セディバ猿人は手を木登りにも使っていただろうが、石器を作る過程で必要になると考えられている「プレシジョン・グリップ」(指先だけを使うものの握り方)もできたと考えられると述べた。

 化石からセディバ猿人は、脳は小さかったものの発達しており、その骨盤の特徴から直立していたことがうかがえる。足と足首は類人猿と人類の解剖学的特徴を兼ね備えていた。手の骨が最もよくそろっていたのは死亡時に20~30代だったと思われる女性の化石で、土踏まずとアキレス腱は人間に似ていたが、すねとかかとは類人猿に似ていた。女性の化石の傍らには少年の化石もあり、同じく研究の対象となったが「一緒に発見されなければ、別の種に分類していただろう」と、別の共著者であるウィットウォータースランド大のバーナード・ジプフェル(Bernard Zipfel)氏は語った。

 世界各国の科学者80人による研究チームによる分析は、類人猿から人類への進化の過程について新たなヒントを与えてくれたが、同時にまた多くの新たな疑問も生み出した。セディバ猿人は現生人類を含むホモ属の直接の祖先にあたるのか、それとも、いわゆる「進化の袋小路」と言われる種で、人類は別系統で進化してきたものなのかは明らかになっていない。(c)AFP/Kerry Sheridan

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