【9月7日 AFP】生物学者が夜も眠れなくなるような悩ましい疑問がある――進化論的な観点から見て、鳥の三つ叉の羽の一番内側の指は親指か人差し指か?

 4日の英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された論文によると、その答えは「その両方の要素がある」というものだった。

 研究によれば、通常、最初の指を作る鳥の幹細胞は胚発育の初期段階で死滅してしまう。そして、人差し指を作るよう設計された細胞が代わりに、親指のような突起物を作り出すという。

■多様性ある動物の指の数

 すべての4本足の脊椎動物は、四肢のそれぞれが5本指という太古の鋳型を共有している。だがそれは、指の数の多様化という生物の進化を止めることはなかった。

 ヒトと霊長類の手足は通常5本指で、それぞれに親指がついている。一方、鳥類は羽に3本あり、足には2本か3本、または4本の指がある。

 フタユビナマケモノは名前通り2本指だ。ヘビは四肢を完全にそぎ落とした。パンダの手は5本指で、足には親指に似た6本目の指があり、これで笹を食べる際に笹をしっかりとつかんでいる。

 一般的に、進化では新たな特徴を得ることよりも、特徴を失うことの方が容易だ。

■新技術で謎を解明

 鳥類の羽にある三つ叉の突起が、親指、人差し指、中指なのか、それとも人差し指、中指、薬指なのかをめぐる議論は、相反する証拠に焚きつけられ、1世紀以上続いてきた。

 地球上に獣脚類の恐竜が闊歩した2億年前まで鳥類の痕跡を求めた古生物学研究では、「親指・人差し指・中指」説が支持された。

 一方、胚発達の研究から得られた手がかりでは、「人差し指・中指・薬指」説の可能性の方が高いとされた。

 ギュンター・ワーグナーGunter Wagner)氏率いる米エール大(Yale University)の研究チームは今回、ニワトリを対象に「遺伝子発現プロファイル」と呼ばれる技術を使って、この指の謎を追究した。

 その結果、ニワトリのヒナの羽の1本目の指は、足の1本目の指と同じ遺伝コードから作られていた。だが、羽では、その指が、通常人差し指が作られるはずの胚の部位から発生したという。

「トランスクリプトーム・シーケンシングと呼ばれる新技術を使った。数年前からある技術だが、この問題で使用したのはわれわれが初めて」と、ワーグナー氏は電子メールで述べた。

■新たな謎が明らかに

 同大の研究では、新たな謎も明らかになった。羽の部分に埋まっている4本目と5本目の指と、足の4本目の指と5本目の指に相同性がなかったという。

 生物学の世界では、相同性とは、共通の祖先や発生学的起源を持つことから、種を超えて基本的な類似性が存在することを意味する。この事例では、1つの個体の中で器官が類似することを意味する。「この固有性がいかにして取得されたのかを突き止めたい」と、ワーグナー氏は語った。(c)AFP/Marlowe Hood