【8月15日 AFP】世界で初めてクローンのネコが誕生してから、まもなく10年が経つが、愛するペットたちの死後の「よみがえり」を求める市場は大活況となるだろうとの予測は、どうやら当たらなかったようだ。

 当時、米クローンペット業界最大手だったバイオアーツ(BioArts)は2009年に操業を中止。家畜クローン産業も、世界で年間数百頭のウシとブタのクローンが行われる程度で、比較的小さな規模にとどまっている。

 だが、史上初のクローンネコ「CC」の所有者は、いまでもクローンネコCCは大成功だったと考えている。灰色と白の毛並みのCCは、このところ動きがやや緩慢になっており、3年前に出産を経験して以来、体型がぽっちゃりとしてきた。でも、それもCCの素晴らしい点の1つだという。CCは、完全に普通のネコなのだ。

「みんなは、CCがどこか変わってるんじゃないかと期待する」と、CCのクローンに携わったテキサスA&M大学(Texas A&M University)の研究者、デュエン・クレーマー(Duane Kraemer)氏は語る。「一度、ネコの品評会に連れて行ったことがあるが、ある男性に、他の普通のネコと見分けがつかないねと言われたよ」

 CCは「Carbon Copy(カーボンコピー)」の略だ。2001年12月22日にテキサスA&M大学の研究所で、三毛猫のレインボーから採取された細胞を、別のネコの胚に入れ、アリーという名のネコを代理母として誕生した。CCとレインボーの遺伝的構造は全く同じだが、CCは三毛とは異なり、オレンジ色の毛が無い。これは三毛猫のクローンでは通常、2色のみが引き継がれるからだという。

 クレーマー氏は現在、半ば引退の身。自宅でのAFPの取材に、「クローンはよみがえりではなく、再生産だよ」と語った。

 それが、10万ドル台(800万円台)にも上ることもあるクローン料金と合わせて、ペットクローン産業がうまくいかなかった理由だ。

■「市場は実際極めて小さい」

「サービスを求めるペット所有者が少なすぎた」。バイオアーツのルー・ホーソン(Lou Hawthorne)社長は2年前、ペットクローン産業からの撤退時にウェブサイトにこう書いた。

「10年以上この市場を研究し、さらにイヌとネコのクローンサービスの提供も行った結果、この市場は実際極めて小さいことを確信した」

 また、イヌのクローンはたいてい成功したものの、一部のクローンでは身体的な欠損が生じることがあった。この問題に研究者たちは頭を抱え、明確な説明を導き出せなかった。

 史上初めてのクローン動物、ヒツジの「ドリー(Dolly)」は1996年、スコットランドのエディンバラ(Edinburgh)にあるロスリン研究所(Roslin Institute)で誕生し、肺の疾病で2003年に死んだ。2005年には、史上初のクローンイヌ「スナッピー(Snuppy)」が韓国のソウル大学(Seoul National University)で誕生している。

■家畜クローン市場は多少の成功

 一方で、ペットのクローン市場に比べて家畜のクローン市場が成功した理由は、優良な家畜には商品価値があるからだと専門家は指摘する。賞を獲得したウシやウマのクローンには、ブリーダーは数万ドルという大金ですら、喜んで支払う。それに、家畜の種類によっては、イヌのクローンよりも簡単で低価格だ。

 テキサス州オースティン(Austin)のViagen社は、米国に2社ある家畜クローン大手の1つだ。世界的には他にも数社の企業が参入している。

 Viagenではドリーの誕生以降、これまでに世界で3000頭の家畜がクローン化されたと推測している。世界では年間約200~300頭のウシ、200~300頭のブタのクローンが作られているという。

 Viagenの提供するウマのクローン価格は16万5000ドル(約1300万円)。ウシは2万ドル(約150万円)で子ブタは2500ドル(約20万円)。子ブタの場合はたいてい、数匹同時に出産される子ブタをセットで買う。Viagen社のクローン動物は、バイオアーツのような先天性異常に悩まされたことはないという。

■普通のネコとして生きるCC

CCの余生は、クレーマー夫妻に引き取られてからは、良いものだったと言えるだろう。CCは現在、クレーマー夫妻がCCのために自宅の庭に建てた2階建てのエアコン付きキャットハウスで、ボーイフレンドのスモーキーと、3匹の子猫たちと暮らしている。

 CCには生物学的な母親は存在しないが、CC自身はとてもよい母ネコとして子育てをしている。「子猫たちがキーキー泣くと、CCはすぐに飛んでくるの」と、クレーマー夫人は語った。(c)AFP/Bill Murphy