【7月26日 AFP】世界最大の粒子加速器「大型ハドロン衝突型加速器(Large Hadron ColliderLHC)」を運用する欧州合同原子核研究機構(European Organisation for Nuclear ResearchCERN)は25日、「神の粒子」とも呼ばれるヒッグス粒子(Higgs Boson)の実在を示すかすかなヒントが得られたと発表した。ヒッグス粒子の有無に関する決定的証拠は2012年末までには得られる見込みだという。

 CERNのロルフ・ホイヤー(Rolf-Dieter Heuer)所長はスイス・ジュネーブ(Geneva)のCERN本部で会見を開き、「ヒッグス粒子については、存在の有無を除いてはすべてがわかっている。『あるべきかあらざるべきか』というシェークスピア的な問いの答えは来年末までに出るだろう」と述べた。

 一方、米エネルギー省のフェルミ国立加速器研究所(Fermilab)も、ヒッグス粒子の存在の証拠となり得る兆しを見つけたと発表した。同研究所ではヒッグス粒子の発見を目指す2つの実験が行われているが、一方の実験の広報担当者は前週、「ヒッグス粒子の探索は最もエキサイティングな最終ステージに入った」とする声明を出していた。

 CERNもフェルミ研究所も、ヒッグス粒子が存在している可能性のある質量の範囲を大きく絞り込んでいるが、ヒッグス粒子の発見をめぐる両者の競争が益々過熱することも意味している。ヒッグス粒子の有無に関して動かぬ証拠を提示した研究グループには、ほぼ間違いなくノーベル物理学賞が与えられると言われている。

■「標準理論」で視野が狭くなっているとの指摘も

 神の粒子の概念は1964年、これまでに存在が確認されている素粒子が宇宙でどのように相互作用するかを説明する「標準理論(Standard Model)」の不完全な部分を補うものとして英国の理論物理学者ピーター・ヒッグス(Peter Higgs)により提唱された。標準理論では、素粒子の大半になぜ質量が備わっているのかという根本的な疑問に答えられないため、ヒッグス粒子がなければ理論そのものが崩壊してしまう。

「ヒッグス粒子が見つかれば標準理論は完成する。見つからなければ標準理論には重大な欠陥があることになる。いずれにしても大きな発見だ」と、CERNのホイヤー所長は話した。

 なお、ホイヤー所長の会見では、ビッグバンに関する研究で2006年にノーベル物理学賞を受賞した米国の天体物理学者、ジョージ・スムート(George F. Smoot)氏が、記者席から1つの疑問を投げかけた。

「標準理論に関してまさに発見が行われようとしているが、標準理論が偉大であるがゆえに、われわれの視線は標準理論に固定されてしまっている。視野が狭く洗脳されてしまっているため(理論物理学者は)新たな可能性を秘めた事実をしっかり見据えようとはしていない」(c)AFP/Marlowe Hood