323年前の難問「モリニュー問題」、MIT科学者らが解く
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【4月11日 AFP】323年前にアイルランドの政治家ウィリアム・モリニュー(William Molyneux)が哲学者のジョン・ロック(John Locke)に宛てた書簡で投げかけた人間の知覚をめぐる未解決の難問、「モリニュー問題」をついに解決したと、米マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology、MIT)の科学者らが10日、発表した。
モリニューの投げかけた問いは、「先天的に目が見えず、球体と立方体を触覚によって区別していた人が、突然目が見えるようになった場合、手を触れずに球体と立方体を見分けることができるか」というもの。
■「経験論」対「生得論」、モリニュー問題の意義
ロックのような「経験論者」は、人間はまったく何も知らない状態で生まれると考え、人間とは経験の総体だとみなす。
一方、「生得論者」は、人間には特定の観念が生まれつき備わっていて、視覚や聴覚、触覚によってそれらの観念が起動されるという立場を取る。すなわち、生まれつき目が見えなかった人が突然見えるようになって、すぐに球体と立方体を見分けられれば、その知識は人間に生まれつき備わっていたものだということになる。
この「経験」対「生得」の論争は、現代の神経科学においても続いている。
「モリニュー問題の素晴らしい点は、表象がどのように脳内で構築されるのかという疑問に通じるところだ」と、MITのパワン・シンハ(Pawan Sinha)氏は語った。
最新の研究では、脳内イメージの蓄積には視覚だけでなく、触覚も関係していることも示唆されている。だが、モリニュー問題を解決するための決定的な実験をデザインできた人はいなかった。
■被験者を探して実際に実験
課題は、被験者を見つけ出すことだった。被験者は生まれつき目が見えない人であり、その後、実験が受けられるほどに成長してから目が見えるようになった人でなければならない。しかし、治療可能な先天的視覚障害者は、たいてい幼少期に治療を受けてしまう。先進国では特にそうだ。
そこでシンハ氏は2003年、インドの眼科と協力して実験計画を立ち上げた。そして、患者を治療する中で手術すれば視力が全回復する状態の8~17歳の男女5人を見つけた。
研究チームは、レゴブロックのような物体を使い、視覚を取り戻した被験者たちに、視覚だけで類似する形を判別させた。すると、ほぼ100%の確率で、似た形を選ぶことができた。触覚だけで同じ実験をした場合も、同じ結果となった。
次に研究チームは、被験者にまず物体を「触らせた」上で、次に物体を「見せ」、触った物体と似た形の物体を視覚によって選ぶよう求めた。すると、単なる推測と変わらない低確率でしか似た形を選ぶことはできなかった。
「彼らは(視覚と触覚とを)つなげることができなかった」と、MITのユーリ・オストロブスキー(Yuri Ostrovsky)氏は説明した。「求められた行動を遂行するためのクロスモーダルな(感覚が統合された)表象は形成されなかった」
モリニュー問題の回答はつまり、「ノー」だった。少なくとも、視覚を取り戻してすぐには無理だということが示された。
■定説に挑む結果に
「神経科学的には、最も興味深かった発見は、この不能性がいかに迅速に補われるかだ」と、論文の主筆者、リチャード・ヘルド(Richard Held)MIT名誉教授は語った。「およそ1週間で完了する。とても速いことに驚いている」
以上から研究チームでは、幼年期を過ぎてからも脳は柔軟に変化できる(可塑性がある)ことがわかった、と結論付け、「全盲のまま3~4歳を過ぎると視覚能力を得られないとする『視覚の臨界期』という定説に異をとなえる結果だ」と述べている。
この研究結果は、米科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)」に掲載された。(c)AFP/Marlowe Hood
モリニューの投げかけた問いは、「先天的に目が見えず、球体と立方体を触覚によって区別していた人が、突然目が見えるようになった場合、手を触れずに球体と立方体を見分けることができるか」というもの。
■「経験論」対「生得論」、モリニュー問題の意義
ロックのような「経験論者」は、人間はまったく何も知らない状態で生まれると考え、人間とは経験の総体だとみなす。
一方、「生得論者」は、人間には特定の観念が生まれつき備わっていて、視覚や聴覚、触覚によってそれらの観念が起動されるという立場を取る。すなわち、生まれつき目が見えなかった人が突然見えるようになって、すぐに球体と立方体を見分けられれば、その知識は人間に生まれつき備わっていたものだということになる。
この「経験」対「生得」の論争は、現代の神経科学においても続いている。
「モリニュー問題の素晴らしい点は、表象がどのように脳内で構築されるのかという疑問に通じるところだ」と、MITのパワン・シンハ(Pawan Sinha)氏は語った。
最新の研究では、脳内イメージの蓄積には視覚だけでなく、触覚も関係していることも示唆されている。だが、モリニュー問題を解決するための決定的な実験をデザインできた人はいなかった。
■被験者を探して実際に実験
課題は、被験者を見つけ出すことだった。被験者は生まれつき目が見えない人であり、その後、実験が受けられるほどに成長してから目が見えるようになった人でなければならない。しかし、治療可能な先天的視覚障害者は、たいてい幼少期に治療を受けてしまう。先進国では特にそうだ。
そこでシンハ氏は2003年、インドの眼科と協力して実験計画を立ち上げた。そして、患者を治療する中で手術すれば視力が全回復する状態の8~17歳の男女5人を見つけた。
研究チームは、レゴブロックのような物体を使い、視覚を取り戻した被験者たちに、視覚だけで類似する形を判別させた。すると、ほぼ100%の確率で、似た形を選ぶことができた。触覚だけで同じ実験をした場合も、同じ結果となった。
次に研究チームは、被験者にまず物体を「触らせた」上で、次に物体を「見せ」、触った物体と似た形の物体を視覚によって選ぶよう求めた。すると、単なる推測と変わらない低確率でしか似た形を選ぶことはできなかった。
「彼らは(視覚と触覚とを)つなげることができなかった」と、MITのユーリ・オストロブスキー(Yuri Ostrovsky)氏は説明した。「求められた行動を遂行するためのクロスモーダルな(感覚が統合された)表象は形成されなかった」
モリニュー問題の回答はつまり、「ノー」だった。少なくとも、視覚を取り戻してすぐには無理だということが示された。
■定説に挑む結果に
「神経科学的には、最も興味深かった発見は、この不能性がいかに迅速に補われるかだ」と、論文の主筆者、リチャード・ヘルド(Richard Held)MIT名誉教授は語った。「およそ1週間で完了する。とても速いことに驚いている」
以上から研究チームでは、幼年期を過ぎてからも脳は柔軟に変化できる(可塑性がある)ことがわかった、と結論付け、「全盲のまま3~4歳を過ぎると視覚能力を得られないとする『視覚の臨界期』という定説に異をとなえる結果だ」と述べている。
この研究結果は、米科学誌「ネイチャー・ニューロサイエンス(Nature Neuroscience)」に掲載された。(c)AFP/Marlowe Hood