【10月13日 AFP】1頭のザトウクジラが、哺乳(ほにゅう)類の「最長移動距離」の世界記録を破ったとする論文が13日、英国王立協会(British Royal Society)の専門誌「バイオロジー・レターズ(Biology Letters)」に掲載された。このメスクジラは、交尾相手のオスを求めて、大西洋からインド洋まで9800キロ以上を泳いだという。

 このクジラは1999年8月7日、ブラジル南東沖のアブローリョス(Abrolhos)諸島付近の繁殖地で、群れと一緒にいるところを初めてカメラに収められた。

 その2年後の2001年9月21日、このクジラは偶然にも、マダガスカル東岸沖のサンマリー(Sainte Marie)島付近の繁殖地で、ホエールウォッチングツアーに参加していた観光客により撮影された。

 同じクジラであることは、尾びれの形と模様で確認された。

 米メーン(Maine)州のアトランティック・カレッジ(College of the Atlantic)の研究チームによると、この移動距離は、記録上これまでの最長だった哺乳動物の季節移動の距離を約400キロ上回った。

■繁殖習性の定説も覆す

 ザトウクジラの生態についてはほとんどが謎に包まれたままだが、このクジラは、繁殖習性に関する定説にも疑問を投げかけることとなった。

 これまでは、交尾相手を探すために長距離を泳ぐ可能性のあるザトウクジラはオスだけと考えられてきた。また、ザトウクジラの移動は南北方向で行われているというのが定説だった。例えば、餌が豊富な大西洋の南部へ移動し、繁殖期になると大西洋の赤道付近に戻るといった具合だ。

 だが、今回の事例は、ザトウクジラが、繁殖のために東西方向にも移動していることを示唆している。とは言え、確認されたのは今回の1頭だけ。上記の学説を確立するにはさらなる調査が必要だ。

■遺伝子に関しても再考迫る

 南半球のザトウクジラは遺伝子の特徴から大きく7つのグループに分類でき、これまでは、主にグループ内の個体同士で繁殖していると考えられていた。

 これは遺伝子の多様性が狭まることを意味し、生物種にとっては望ましくないとされてきたが、長距離を移動する個体が見つかったことでこの見方に再考が迫られ、ザトウクジラの保護活動にも影響を与える可能性もある。

 ザトウクジラは一時期乱獲により絶滅寸前となったが、現在は個体数を大幅に回復させている。(c)AFP