【7月27日 AFP】鼻息を使ってメールを書いたり、ウェブサイトを見たり、車椅子を動かしたりできる機器をイスラエルの医師たちが開発した。重い障害がある人でも簡単に使えたという。26日、米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)に発表された。

 この機器は鼻で呼吸する際に使われる口腔上部にある軟口蓋を利用する。軟口蓋を動かしているのは脳神経だが、脳神経は重傷を負った場合にも支障を生じにくいと、研究チームの1人、ワイツマン科学研究所(Weizmann Institute of Science)のノーム・ソベル(Noam Sobel)教授は語る。「まばたきをコントロールしているのも脳神経。だから重傷を負った人でも、まばたきを使って意思疎通できることが多いのです」

■鼻息の圧力を利用

 同研究所とテルアビブ大学(Tel Aviv University)医学部のチームは、酸素チューブに似たカニューレ(管)を鼻孔の近くに付け、小型センサーを使って鼻息の圧力を電気信号に変換する機器を開発した。

 まず健常者で実験した結果、簡単にコンピューターゲームをしたり、文章を書いたりできるようになった。この結果を受けて今度は、思考力には障害はないが四肢麻痺など重度の身体障害がある人たちにこの機器を試用してもらった。

 7か月前に脳梗塞で身体が麻痺したある女性は、最初は鼻での呼吸自体もリハビリする必要があったが、3週間のうちにこの機器を使って簡単な質問に答えるところから、家族へのメッセージを発症後初めて書けるようにまでなった。

 18年間、身体が麻痺したままの男性の患者では、それまでまばたきでしか意思疎通できなかったが、機器を装着してわずか20分で自分の名前を書くことができた。また多発性硬化症による四肢麻痺の女性も、この10年間で初めて自分の名前を書くことができた。この女性は鼻の息でカーソルを使ってパソコンを動かすことも覚え、今ではインターネットを見たり、メールを書いたりもしている。

■重度の障害がある人もすぐに習熟

 こうしてこの機器を試用した計10人が非常に短時間で、鼻息を使って文字を書いたり、インターネットを使ったり、パソコンのコピー&ペースト機能を使って検索することなどができるようになった。ソベル教授は「1人の女性はまばたきでさえできなかったが、今ではわたしたちにメールを書いて送ってくれる。感動的です」と喜ぶ。

 研究チームはこの試用の成功を受け、鼻息で電動車椅子を動かすためのプログラムを開発した。この車椅子も最初は健常者10人が迷路の中で試運転したが、全員なんなく運転できるようになった。次に首から下が6年前から麻痺している30歳の男性が試したところ、2回目で健常者と変わらない運転ができるようになり、「四肢麻痺の人でもわずか15分の練習で、非常に正確に鼻息コントローラーを使いこなせるようになった」と報告された。

 この鼻息によるコントローラーはまだ開発段階だが、「この装置のローテクでシンプルな点が特に気に入っている」と話すソベル教授は、「どこかにライセンスを供与し、さらに開発が進んで大量生産されるようになれば、10~20ドル(約870~1740円)という安い値段で誰でも使えるようになる。世の中に広く普及して、多くの人の力になって欲しい」と語った。(c)AFP/Karin Zeitvogel