【5月27日 AFP】火星の北極冠に、グランドキャニオン(Grand Canyon)がすっぽり入るほどのごつごつした深い渓谷があるのはなぜなのか。40年来の謎を解決したとする論文が、26日の英科学誌ネイチャー(Nature)に発表された。

 直径約1000キロほどの範囲の北極冠には、降り積もった氷とちりが厚さ3キロの層を成している。

 ここには約40年前、米航空宇宙局(NASA)の探査機が初めて詳細な観測を行って以来、科学者らを悩ませている2つの際立った特徴がある。 

 1つは、長さ500キロ、幅100キロ、深さ2キロの「カズマ・ボレアレ(Chasma Boreale)」と呼ばれる渓谷の存在だ。成因については、火山活動によって氷床が溶け、洪水が発生して火星の地表が深く削られたため、とする説が主流だ。 

 もう1つの謎は、渦を巻くように放射状に広がる谷の存在だ。この形状から一部の専門家は、火星の自転で生じる遠心力により形成されたものだとする説を唱えている。 

■最新データを分析

 しかし、これらの説はいずれも誤りであるとして、新説を今回提示したのが、米テキサス大学オースティン校(University of Texas at Austin)の地球物理学者、ジャック・ホルト(Jack Holt)氏らが率いる研究チームだ。

 チームは、NASAの火星探査機「マーズ・リコネサンス・オービター(Mars Reconnaissance OrbiterMRO)」による最新のレーダー・データを分析した。

 すると、北極冠の表面下の層は非常に複雑で、厚さや向きが非常に多様なことがわかった。このことは、数百万年以上もの間に氷とちりが堆積していくと同時に、強力な火星風により侵食されていったという、太古からの過程を示している。

 つまり「カズマ・ボレアレ」は、天変地異によって生まれた渓谷ではなく、非常に長い年月の間に今の形になったとチームは考えている。

 地球において川が柔らかい岩を浸食していくように、火星では風が、軟質砂岩と氷でできた基層のすき間を侵食していった。さらに、このとき生じた氷とちりがすき間の両側に堆積(たいせき)し、渓谷の斜面を形成していった。 

 もう一つの謎、渦巻き状の谷については、自転の影響で風向きが変わる現象として知られる「コリオリの力」によって、渦が生じたと考えられるという。(c)AFP