【6月14日 AFP】ブラジルのリオデジャネイロ(Rio de Janeiro)からフランスのパリ(Paris)に向かう途中に大西洋上で墜落したエールフランス(Air France)AF447便のブラックボックスが未回収だが、航空専門家のピエール・ジャニオ(Pierre Jeanniot)氏は、「新技術を使って事故の瞬間をリアルタイムで記録・送信する機器が必要」だと指摘した。

 エア・カナダ(Air Canada)社長、国際航空運送協会(International Air Transport AssociationIATA)会長を歴任した経験のあるジャニオ氏は、約40年前の飛行記録装置(フライトレコーダー)の導入期、その開発に一役買ったが、現在では「ブラックボックス」はもはや時代遅れだとAFPのインタビューに答えた。「技術は進化している。操縦室から衛星経由でリアルタイムにデータを送信するのも、10年前に比べて格段に安いコストでできる。今ならば飛行中に生じた問題全部を直接送信することが可能だ」

■マウスのクリック数回で事故状況を再現

 ジャニオ氏は、衛星経由の飛行記録の自動データ送信はすでに利用可能な状態であり、航空業界の標準として採用すべきだと強調する。これを導入すれば、AF447便のブラックボックス捜索のように多大な労力をかけずに、マウスのクリック数回で事故状況の再現が可能になるという。「障害発生時点以降のデータだけを送信するところから着手されるだろう。深刻な障害発生時には、すべてのデータを送信し続けるようプログラムすることもきわめて単純にできる」
 
 さらに、事故後悲しみに暮れる遺族たちにとって、リアルタイムのデータ送信は貴重だという。「何か月も、時には何年も、家族の身になにが起こったのか分からない状況で過ごす辛さは想像を超えるだろう」

 現在、カナダ・トロント(Toronto)の小規模メーカー、スターナブ(StarNav)が空と陸をリアルタイムで結ぶ画期的なシステムを開発中だという。ジャニオ氏によると、データ監視されるのは障害発生時に限定されており、そのため大半の運航ではデータ送信は必要なく、衛星の中継に負荷がかかり過ぎることはないという。
 
 エールフランスのパイロット組合のジェラール・アルノー(Gerard Arnoux)書記長も、すでに最新式の旅客機では衛星によるデータ送信が採用されており、非常に優れていると評価する。

■パイロットのプライバシー保護の問題も

 しかし、小規模のパイロット組合、「フランス・アルテル(France Alter)」は、こうしたシステムはプライバシー侵害の危険性があると注意を促している。同組合のクリストファー・プレセンティ(Christopher Presenti)書記長は「ブラックボックスならば、フライト状況に問題がなければ、それが全部レコーダー内に残るだけだ。しかし、何から何まで送信されるとなると、フライト中のパイロットの会話から何からすべて記録される。自分たちの日常のこととかも話すだろう。会社側がこうした情報を利用しないよう保証する手段があるだろうか」(c)AFP/Michel Moutot